“本質的な江戸切子”に情熱を燃やす作家渾身の一作
見る・触れる・使う、三度の感動をくれるオールドグラス
■ガラスメーカーから職人の道へ。グラスに「3つの感動」を込める
圧倒的な重厚感、異彩を放つデザイン……江戸切子らしい繊細さはありつつも、豪快な仕上がりで魅了する鍋谷淳一氏が率いる「鍋谷グラス工芸社」。1949年創業、東京都大田区で三代続く工房である。鍋谷海斗氏は超一流のガラスメーカー「KAGAMIクリスタル」での経験を経てから、同社にて職人となった若手作家だ。海斗氏いわく、自分にとっての切子とは「自分のすべてを形として表現できるもの」であるという。そんな信条をもって目指すのは「見る・触れる・使う、その時々に別々の感動が沸き起こる作品」。グラスという小さな道具に、3つの感動を込める。海斗氏は父・淳一氏とはまた違う道筋で、江戸切子の本質的な魅力を表現しようと情熱を燃やす作家だ。
■「美しい華には棘がある」二面性をカットによる仕掛けで表現
海斗氏が挑んだのは「美しい華には棘がある」というテーマ。見惚れてしまうほどの美しい外見があっても、そこには触れるものを傷つける一面も持ち合わせている……そんな二面性を表現した。クリスタルガラスの素材に、大胆にシャープなカットをいれ、まずは2枚重なった葉を演出。それぞれの葉脈として施したのは、八角籠目と菊つなぎ。ここにもテーマである二面性が表現されているところが見事だ。中を覗いてみると、そこには華やかな花が咲いているのがわかる。今度は底面に入れたカットによる光の屈折によって、棘が姿を表している。「二面性」という抽象的なテーマに対し、丁寧にアプローチした秀作だ。
■薄墨・透きだからこそ、“使う”時の感動は大きい
今回のオールドグラスは2種。薄墨グラスの「黒華」と透きグラスの「白華」をご用意いただいた。薄墨の淡くおぼろげな色合いはミステリアスで、多くの江戸切子ファンが虜となった独特の雰囲気だ。現代的な切子の一つである。一方で「透き」は江戸切子のはじまりの色であり、クラシックな江戸切子の良さを持っている。本作はいわゆるなオールドグラスとは違い、少し細身の、楕円の形をしているため、ウィスキーや焼酎のロック!といった定番の飲み方に限らなくても良さそうだ。クリアなグラスは中身を美味しく見せる効果もあるので、梅酒やジュースなど、色彩のあるドリンクにもオススメ。見た目にも美しいグラスなら、使う時の感動はより大きなものとなるはずである。カットによる屈折の仕掛け、八角籠目と菊つなぎの意匠の感触、飲みものを美味しく見せる高級感。海斗氏が込めた3つの感動を、たっぷりと味わっていただきたい。
鍋谷 海斗 プロフィール
2016年4月 カガミクリスタル㈱ 入社
2018年4月 ㈲鍋谷グラス工芸社 入社
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