「曲線のカット」と「琥珀の江戸切子」の最高到達点
根本硝子工芸の技の極みを現す「新・雫オールドグラス」
■贅と美の極み。曲線と琥珀のグラデーション際立つオールド
大小のギャップのある二つの意匠の対比を楽しむことは、優れた江戸切子職人による芸術的なグラスの醍醐味の一つである。大きくうねる曲線で表した、「雫」。滴る雫たちの間を縫うように彫られた伝統文様、菊繋ぎ。「根本硝子工芸」代表の根本達也氏の十八番とも言える“曲線”を活かした新たなる「雫-Shizuku-Classical Glass オールド」は、まさしく江戸切子の真髄を楽しめる意欲作。精緻な菊繋ぎもさることながら、実は曲げながら曲線をカットしていくのは直線のカットよりもはるかに難しい。江戸切子界でも随一の“曲線美”を生み出す達也氏の技を活かした「雫」シリーズは、同社を代表する作品郡。今回のオールドグラスは、シリーズの代表格にして王道のオールドグラスをさらに洗練させ、琥珀グラデーションで貫禄ある佇まいに仕上げられている。
■2代にわたって磨き上げた技術が独自の表現を生む
東京・亀戸で活躍する「根本硝子工芸」。代表の根本達也氏は、卓越したカット技術、そして個性的な作品を生み出すことで「江戸切子界にこの人あり」と言われる人物である。父である故・根本幸雄氏は「東京マイスター」や「現代の名工」、さらには「黄綬褒章」を受章した江戸切子の名人。達也氏はより「自分にしかできないこと」を追求し、オリジナリティあふれる作品を生み出すことに余念がない。「カットをたくさん入れればお客さんに興味を持ってもらえますが、いまの時代はそれだけではダメだとも感じています。自分のやりたい表現をして、それを良いと思ってもらいたい。そのバランスですね」(達也氏)。そうして生まれる江戸切子は確実に他とは違う魅力を放っていて、何が違うのか頭で理解したくなり、ついつい見入ってしまう。
■根本氏の十八番、「曲線のカット」が冴え渡る
江戸切子の伝統文様には、幾筋もの直線を交差させて文様を作り出しているものも多い。だが達也氏はここで大きくカーブを描くカットを施し、唯一無二の美しさを誇る曲線を生み出す。そもそも曲面であるグラスを回転するダイヤモンドカッターに当て、手元で曲げながらカットしていくのは、もちろん容易いことではない。達也氏だからこそ刻める流麗なカットによって、本作のアイコンである「雫」が生まれているわけだ。もちろんそれぞれのカットも画一でなく、深いところ、浅いところを部分で使い分け、うねるような動きを表現。下に向かうにつれて濃くなっていく琥珀色が光を通して乱反射する姿も美しい。一方でくちびるが触れる部分は口当たりがより滑らかになるよう、湾曲したカットにし、酒を飲むという一瞬は繊細に味わいを楽しめる作りに。芸術品と呼べる意匠の細部に配慮を混ぜ、酒を楽しむ時間を最高潮に盛り立てる仕上がりを実現している。
■「お気に入りのグラス」で飲む酒は、格別に美味い
名人たちによる数々の意匠が群雄割拠する江戸切子のなかでも、琥珀をベースにしたものはとくに人気が高い。オールドという王道の形でありつつ、極限のオリジナリティによって至高の領域に達した「雫-Shizuku-Classical Glass オールド」では、瑠璃・緑とアンバーカラーという人気の組み合わせに加え、高級かつ希少な金赤琥珀もご用意が叶った。焼酎やウィスキーを一人でゆっくり楽しむ夜に、芸術的な江戸切子を使う。それは「大人の嗜み」を感じさせる所作である。お気に入りのグラスで飲めば酒は一層うまく感じられるものだ。歴史に根ざした伝統工芸であり、作家が自分の表現を求めて試行錯誤を重ねた“現代の酒器”江戸切子は、そんな「大人の嗜み」を最高の形にしてくれるに違いない。