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ifs未来研究所所長 川島蓉子 (前編)

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはifs未来研究所所長の川島蓉子さん。ファッションという視点から時代の先端を見つめ続けてきたマーケッターが考える、魅力的な大人とモノとの関係とは??。
後編はこちら

蚊の鳴くような声で伝えた
「やっぱり、書きたいんです」

藤巻 川島さんと知り合ったのはかれこれ20年ぐらい前でしょうか。バーニーズを辞めて、伊勢丹に戻ってきたばかりの頃ですね。
川島 「伊勢丹の婦人服売り場を変えるんだ!」と熱弁をふるわれたんですよ。初対面なのに(笑)
藤巻 懐かしいなあ。当時からやたら熱く、夢ばかり語っていた。
川島 うん。今も全然変わっていない。

藤巻 「デザインはニーズを創造する」というのも、その頃覚えた言葉。いい言葉に出会うと、自分を導いてくれる。
川島 私も長年、インタビューの仕事をしてきたおかげで大勢の方々の考えや言葉に支えられ、育てていただいたように思います。
藤巻 僕が言うのも僭越だけれど、進化しているよね。
川島 そう?(笑)
藤巻 川島蓉子という女性はもともと凄いんだけれど、本を作るたびに幹が太くなっていると思っています。
川島 ありがたいことです。
藤巻 最近もすごく面白い本を手がけていたでしょう。エルメスの副社長が、エルメス独自の哲学を語った『エスプリ思考』。どのようなきっかけで、この本を書くことになったんですか。

川島 あるイベントで、当時はまだエルメス・ジャポンの社長だった齋藤峰明さんにお会いしたのが最初のきっかけです。齋藤さんのお話がもの凄く面白くて、「これはぜひ本にしたい!」と(笑)
藤巻 一目惚れだったわけだ!
川島 でも、「エルメス・ジャポンではお受けできません」と断られてしまったんです。諦めきれず、全身めいっぱいおしゃれをして銀座にあるメゾン・エルメスまで訪ねて行ったけれど、ダメ。帰りに東京駅のトイレで着替えながら、泣いちゃった。それが7?8年前のことです。
藤巻 それでも諦めなかった?

川島 いったんは諦めたんです。でも、たまたま齋藤さんとパリで食事をご一緒したときに、本社の副社長になったと伺った。しかも、会話の中でますます“いいこと”をおっしゃるわけです。それで、しつこいよなと内心思いつつ、最後に思い切って言ってみたんです。「やっぱり、齋藤さんの本を書きたいんです……」と。
藤巻 おお!
川島 蚊の鳴くような声で伝えたら、「いいですよ」と言っていただけて、もう嬉しくて!
藤巻 素晴らしいなあ。

ブランドに流行りすたりはなく、“いいモノ”は長生きする

藤巻 伊勢丹時代にね、Tさんという女性の大先輩からよく「いいものを見なさい」と言われていました。エルメスやクリスチャン・ディオールのアンティークを見せられてね、その色や形、精神までも覚えろと叩きこまれたんです。
川島 ファッションの流行は週単位で変わっていくけれど、“いいモノ”は長生きするんですよね。その意味でいうと、エルメスは全然、流行を追っていないんです。
藤巻 ずいぶん前にパリのエルメスに行ったときに、感動したのが「ガムのケース」。こうした日常にある美、普段着の美を作っている。
川島 エルメスで販売されているものに“アート”は一つもなんいんです。すべてのアイテムが使うことで価値が生まれる“実用品”なんです。
藤巻 以前、このコーナーに出演してくれた森田恭通も言っていたけれど、デザインは買った人をハッピーにする。その積み重ねがブランドを育てるんだね。
川島 エルメスはアイテムはもちろんのこと、ものづくりに携わっている人々の志が格好いいんです。職人のありったけの技と心が詰まっている。「商人であり、詩人であれ」「エスプリとは家風のようなもの」といった文言が脈々と受け継がれています。
藤巻 グッとくる言葉ばかりです。ぜひ、たくさんの人にこの『エスプリ思考』を読んでもらいたい。
川島 すごくおすすめです。私が書いた本だからということではなくて(笑)、今の日本を元気づけてくれる話がたくさん出てくるんです。

“メイド・イン・ジャパン”に
寄り添い、歩んできた軌跡

藤巻 僕らは“メイド・イン・ジャパン”の魅力や多様性をもっともっと国内外の人に知って欲しいという想いで活動してきた。
川島 私は「365日プロジェクト」、藤巻さんは「藤巻百貨店」と形は違うけれど、似たようなことをやっているんですよね。
藤巻 仕事柄、数えきれないぐらいのモノとの出会いがあると思うんですが、川島さんが特に心がけていることは何ですか。
川島 わざわざ口にするのが恥ずかしいぐらいシンプルなんですけれど、「使ってみる」ということですね。インタビューという形で、作り手の方々の想いを伺う機会がたくさんあります。でも、私はあくまでも、作る側ではなく、使う側。一人の女性であり、主婦である私が使ってみてどうだったのか。そこがブレてはいけないと思っています。

藤巻 川島さんの著書『チャーミングな日用品365日』では日めくりカレンダーのように、365個の“メイド・イン・ジャパン”が紹介されている。この本に登場するアイテムもぜんぶ、使っているんですか。
川島 どれも使っていますよ。
例えば、この本で紹介している「釣り糸を織って作ったトートバッグ」は驚くほどたくさんものが入って、汚れたら丸ごと水洗いできちゃう。でも、絹のような光沢があって華やか。仕事用バッグとしても、旅行バッグとしても大活躍してくれています。
藤巻 暇さえあれば買い物をしている川島さんにぴったり!
川島 そうなの! マーケッターというと、「さぞかし、おうちも素敵なんでしょうね」なんて言われるんですが、とんでもない。モノがあふれてしまって大変なんです(笑)
藤巻 素晴らしいなあ。

■後編『トレンドの“目利き”が選ぶ、心に響く贈りもの
トレンドの最先端を見つめ続けてきたマーケッターが惚れ込んだ、あのアイテムを紹介

川島蓉子
かわしま・ようこ●伊藤忠ファッションシステム株式会社 ifs未来研究所所長。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。1984年、伊藤忠ファッションシステム株式会社入社。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析し、アパレル、化粧品、流通、家電、自動車、インテリアなどの国内外の企業と、ブランド開発・デザイン開発などのプロジェクトを行う。Gマーク審査委員。多摩美術大学非常勤講師。『伊勢丹ストーリー戦略』『上質生活のすすめ』『虎屋ブランド物語』『モノ・コトづくりのデザイン』など著書多数。

 

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