異業種から飛び込んだ、幻想的切子作家
シンプルなのに目が離せない神秘オールド「新緑」
■江戸切子界に異業種から飛び込み、様々な表現を探る作家
昭和50年に創業した「篠崎硝子工芸所」の初代、篠崎清一氏は、単なる「カットグラス」にすぎなかったところから、「作品としての江戸切子」という個性を確立し、今につながる歴史を作ってきた巨星である。二代目の篠崎英明氏も、江戸切子界で初めて“親子で伝統工芸士に認定”される快挙を成し遂げただけでなく、先人たちのスピリットをさらに熱く燃し、個性的な作品で現代の巨匠となった人物だ。そんな「篠崎硝子工芸所」に一人、異業種から転職をし、職人の道をゆきはじめた猛者がいる。2020年の江戸切子新作展で発表した“果実の熟れた姿”を表現した花器「赤い果実」が、藤巻百貨店のweb投票において東急プラザ賞を獲得した柳生明氏だ。「斬新なデザインの切子が好きですが、最近はクラシックなデザインの切子も面白いと再認識するようになりました」と語る通り、様々な表現を探るところが特徴的な作家である。
■シンプルなのに目が離せない。硝子に佇んだ神秘の森
「オールドグラス 新緑」が見せる世界観は実に独特だ。ド派手なインパクトがあるわけではないが、なかなかどうして、目を離せない魅力を放っている。新緑の森をテーマに据えた本作は、かまぼこカットをいくつも施し、亀甲紋のような凹凸の連なりを見せている。横から見ると、陽光を浴び、エネルギーを貯えようとする森の姿のようだ。口元から覗き込んでみると、一面が緑に染まり、中央に大木のような影が浮かび上がる仕掛けも見事。ただ外から眺めるのではなく、様々な細部に目をやって、魅力をひとつずつ見つけていく。本作ならではの散策の楽しみは、まさしく森をめぐる気持ちに似ている。
■静けさの中、氷のカランと鳴る音、酒をトクトクと注ぐ音を味わう
江戸切子の世界を愛する貴兄らにとって、晩酌の時間とはどんなものだろうか。とっておきのグラスで、とっておきの酒を飲む。それをただただ楽しむこともあれば、過去へ未来へ自分を飛ばし、様々、思いめぐらせる夜もあるのかもしれない。「オールドグラス 新緑」はぜひ、そのテーマに沿って、森の中を味わうように、小さな音の連続を楽しむ友としてオススメしたい。思い切ってアウトドアなどに持ち出して、本当の森の中で使ってみるのも贅沢な一興ではなかろうか。ウィスキー、焼酎はもちろんだが、音とともに味わうとあらば、日本酒をじっくりと味わうのも良さそうだ。そうして丁寧に味わう酒は、ただ飲むよりも格別の味わいとなるはずである。
柳生 明 プロフィール
2011年 篠崎硝子工芸士 入社
アイテム詳細
素材:クリスタル硝子
サイズ:73φ×86H
重量:約290g
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