藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはデザイナーの森田恭通さん。神戸・三宮にあるバー「COOL」の内装からスタートして26年。世界中でその才能と実績を認められる森田さんが考える、モノとの幸せな関係とは??。ご自身がインテリアデザインを手がけたという「CROSS TOKYO」でお話を伺いました。(前編)
後編はこちら
図面も描けない18歳が
若者向けのバーをデザイン
藤巻 森田さんというと、すごくセンスのいいモノに囲まれて生活しているというイメージがあるけど、「これだけは好きで集めている」「つい買ってしまう」というモノはありますか。
森田 海外に行くとアート関連本が充実した本屋さんに足を運ぶことが多いですね。写真集はたくさん買います。
藤巻 仕事の資料として買っておこうみたいな意識も働く?
森田 もともと僕は学校でインテリアデザインを学んだわけではなくて、ただの“おしゃれファッション好き”からのスタート。海外のファッショナブルな写真集や雑誌は僕にとって教科書であり、着想の宝庫でもあるんです。
藤巻 空間デザインを手がけることになった最初のきっかけは?
森田 神戸にあるビーチハウスでアルバイトをしていたときに、お客さんに「今、神戸にないのはどんなお店?」と聞かれたんです。当時、神戸には大人が行く本格的で重厚な雰囲気のバーはあったけれど、僕ら若者が気軽に行けるおしゃれなバーはなかった。そこで「格好良くて、いろんな人が集まる、ニューヨークの地下にあるようなバーはないですね」と答えたら、「作ってみてよ」と言われたんです。
藤巻 なるほど! それは凄いきっかけですね。
森田 もの凄いチャンスをもらったのはわかったけれど、こちらはまったくの未経験で図面も描けない(笑)
藤巻 でも、遊んでるから「こういうバーがいい」というイメージがあるわけだよね。
森田 そうそう。そのイメージを「VOGUE」や「ELLE」から切り抜いて、組み合わせて、内装業者さんたちに伝えて……という、そこからのスタート。
藤巻 いやあ、素晴らしいですね。正真正銘の現場からの叩きあげ(笑)
森田 未だにデザインを考えるときは「自分が行ってみたいと思うか」「自分ならこの金額で買うか」を考えます。その感覚は18歳のときからずっと変わっていない。
世界のモリタがアート誌を
買い続ける理由とは
藤巻 長く持っているモノだとどうですか。
森田 「VISIONAIRE」(ヴィジョネアー)というアメリカのアート誌ですかね。年3~4回発行される季刊誌なんですが、創刊号から最新刊まで60号近くを全部持っています。
藤巻 60冊以上ということですよね!
森田 この間、マイアミ出張でVISIONAIREの関係者に会ったんですよ。全部持ってると伝えたら、「そんな人、アメリカ人でもなかなかいないよ」とビックリされました。
藤巻 15年近く買い続けているということだもんね。向こうも驚いたでしょう。
森田 VISIONAIREに限らず、アート誌全般に言えることですが、世の中に認められたアートが一冊にまとめられているから、10年前のものも今読むと新鮮。そこには時間や空間の制約を超えた「タイムレス」な魅力があるんです。
藤巻 タイムレスっていい言葉ですね。
森田 デザインをする上で僕が大切にしているエッセンスの一つです。ものづくりに携わる者として、勢いだけで盛り上がってすぐ飽きられてしまうモノを生み出すのはかわいそうだし、寂しいという思いがあるんです。アバンギャルドに思えるかもしれないけれど、実は新たなスタンダードになっていく。そういうものを創っていきたいんです。
藤巻 わかります! 僕はクリエイターではなく、バイヤーだけれど、時代ごとの流行りすたりを超えた、いいモノを届けたい。
藤巻 タイムレス以外に大切にしているキーワードはありますか。
森田 「エレガント」ですね。やっぱり、僕らは男性ですから、女性をどれだけ喜ばせることができるかが大事でしょう?
藤巻 大事ですねえ。
森田 あとは「ウイット」ですね。ワクワクしてもらってナンボ(笑)
藤巻 素晴らしいですね。ぜひ、僕もそうありたい!
森田 いいデザインは人の気持ちを楽しく、明るくしてくれると思うんですよ。
藤巻 確かに! 気持ちのいい空間にいると、気分も良くなるし、やる気も出てきます。
空港から直行したくなる百貨店を創りたいという想い
森田 子どもの頃、百貨店はエンターテインメイトであり、朝から晩まで帰りたくない場所でした。でも、例えば「バッグを買う」という目的を果たしたら、さっさと帰ってしまう。それではつまらない
藤巻 買い物をするだけなら、百貨店にいく必然性はあまりない。
森田 海外に行くと、数はもちろん少ないものの、空港に降り立った途端、ホテルのチェックインも待たずにすぐさまタクシーを飛ばして駆けつけたくなる百貨店がある。リニューアルを手がけるのであれば、いっそ、成田空港から直行してもらえるような店にしたいと思いました。
藤巻 驚くほど様変わりしていました。しかも、現場で働いているスタッフがみんな、今回のリニューアルを喜んでいた。これが本質を掴んだデザインの力だなと改めて感じました。
森田 今回の設計・デザインは“パーク”(公園)がコンセプト。床と天井に個性を持たせることで、自分が今どこにいるのか明確にわかるようにする。ルーブル美術館にあるピラミッドが代表例ですが、人は自分の居場所がわかると安心するんです。
藤巻 そこで安心感を与えることができると、人が回遊し始める!
森田 そして、伝統ある伊勢丹百貨店をもう一度、改めて世界に打ち出すには複数のショップの集合体ではなく、「ミュージアム」まで突き抜ける必要がありました。
藤巻 情報発信のための“アートフレーム”の存在が斬新でした。
森田 これまでの百貨店は各店舗がそれぞれ、工夫をこらし、厳選したアイテムをアピールしてきた。でも、フロア全体、百貨店全体にとってのメイン商品は何かということがわからなかった。イチオシアイテムを明確にすることによって、顧客は百貨店からのメッセージを受け取る。やがて、何度も訪れたい店になっていくんです。
~森田恭通さんのゲストインタビュー~
「ボア パー ヤスミチ モリタ」のルームディフューザー
森田氏がボトルはもとより、香りもデザインしたという「ルームディフューザー」。
対談の中でもキーワードとして登場した「タイムレス」な空間を演出してくれる逸品。
香りの種類は全6種類。藤巻幸大は「002フィグ」を愛用中。
■後編『自分好みの空間をデザインする』
五感を刺激し、発想を引き出す。藤巻幸大も愛用するあのアイテムも登場
森田恭通
もりたやすみち●1967年大阪生まれ。GLAMOROUSco.,ltd.代表。2001年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、上海など海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行なっている。2011年にはプロダクトデザイン会社「code」も設立。
The International Hotel and Property Awards 2011、China Best Design Hotels Award Best Popular Designer、THE LONDON LIFESTYLE AWARDS 2010 (aqua LONDON)、
The Andrew Martin Interior Designers of the Year Awardsなど、受賞歴多数。
取材協力:
「CROSS TOKYO」
東京・六本木にある、森田恭通氏がインテリアデザインを手がけたユージュアルダイニング。
東京都港区六本木5-10-25 EXけやき坂ビルR棟2F
TEL:03-5772-1445
営業:17:00~翌4:00(L.O.3:00)
不定休
http://www.cross-tokyo.com/access/
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