「三代 秀石」が魅せる切子のミニマリズム
「今」と「昔」を表現したモノトーンの世界
■モノトーンの世界に感じ入る、江戸切子の今と昔
これまでに見た江戸切子とはやや異なる世界がそこにある。「堀口切子」のアイテムを一目見ると、そんな感想が浮かぶ。江戸切子を代表する青や赤のカラーではなく、ブラックとクリアのモノトーンだからより一層その気配が強い。作り手である江戸切子職人、「三代 秀石」の号を持つ堀口徹さんは、この二つの組み合わせを「今昔揃(こんじゃくぞろえ)」と呼んでいるという。江戸切子の始まりである「透き(透明なガラス)」を『昔』、近年開発され、いわば最後に加えられた色である「黒被(くろぎせ)」を『今』として、また伝統文様とモダンなカットというデザイン面でも対比させることにより、江戸切子の歴史を凝縮したような表現となっている。特に「黒被万華様切立盃(くろぎせまんげようきったてはい)」はその独自性を評価され、日本が誇るべき優れた地方産品「The Wonder 500?」のひとつに選ばれた。
■シンプルの中の変化を楽しむ、切子のミニマリズム
技術の発達によってより複雑なデザインが可能になっている江戸切子の世界で、あえて「伝えたいもののために削ぎ落とす」ことを心がけている堀口さん。見た目はシンプルでミニマル、しかし使うことによって初めてわかる表情にその力を注いでいる。「籠目ニ菊繋文切立盃(かごめにきくつなぎもんきったてはい)」は、グラスにぐるりと施されたカットが持ち手の位置となり、口を付ける部分の意匠を外す。「黒被万華様切立盃」は、傾けたときに万華鏡のようにきらめく表情の変化で驚きを与える。使い手がその真価を発揮させることで、お酒を楽しむひとときをさらに上質な時間に変えてくれる。「堀口切子」の仕掛けたマジックの中では、いつものお酒がさらにうまく感じられそうだ。