デザイナー 矢島タケシ (後編)

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはデザイナーの矢島タケシさん。パリ在住13年を経て帰国された矢島さんを魅了した、あるメイド・イン・ジャパンとは? 男性のおしゃれの秘訣についても伺いました。
前編はこちら

金色に輝く安全ピンの
思いがけない用途とは――

藤巻 タケシさんはこれまでの人生の中で数えきれないぐらいステキなものを見ていらしたと思います。日本製品の中で気に入っているものはありますか。
矢島 (手首を見せながら)この安全ピンは日本製なんです。
藤巻 え、ブレスレットじゃないんですか?
矢島 いろいろなピンを売っている店でたまたま見つけたんです。18金製できれいでしょう。でも、このままだとちょっとつまらないので、100円均一のゴムをつけてブレスレットにしました。
藤巻 えー! 18金製の安全ピンっていくらぐらいするものなんですか。

矢島 安全ピンは僕が購入した時は2~3万円ぐらいでした。
藤巻 それを百円均一のゴムと組み合わせちゃうんだ。おしゃれですねえ。
矢島 パッと見ただけでは安全ピンだとわからないでしょ。こっちには家にあったシルバーのチェーンをつけてみました。
藤巻 かわいいですねえ。じつは、さっきからずっと「あのブレスレット、どこのだろう」と気になっていたんですよ(笑)

矢島 18金製の安全ピンはパリにいた頃から大好きで集めていたんです。向こうではアンティークショップに置いてあるんですが、あるときマダムが「あなた、どうしていつも安全ピンを買うの? 何に使うものか知ってるの?」と聞くんです。「知らない」と答えると、笑っている。どうやらマダムの話では、パリでは昔、18金製の安全ピンをおむつ止めとして使っていたらしいんです。
藤巻 えー! おむつですか。
矢島 ゴールドだとおしっこがかかっても変色しないんですって(笑)。小さい犬のモチーフがついているなど、かわいらしいデザインのものが多いのも、赤ちゃん用と考えれば、うなづけますよね。
藤巻 なるほどなあ。
矢島 その話を聞いてから、ブローチみたいにつけるのはちょっと……と思うようになったんだけれど、でも可愛いでしょう。18金製だと輝きもやっぱり違う。ブレスレットならまあ、いいかなと(笑)

「自分らしさ」と時代の
空気を融合させるリメイク

藤巻 タケシさんのちょっとしたリメイクのセンスって凄まじいですよね。絵もうまいし。
矢島 今日持ってきたバッグにも自分で絵を描きました。
藤巻 僕らの共通の友人のお誕生日にも、タケシさんはご自身で絵を描いたバッグを持ってお祝いされてましたよね。
矢島 楽しかったですね。
藤巻 この絵やメッセージは何を使って描くんですか。
矢島 ペンキですね。ふつうにホームセンターに売っているようなものを使って、誰にでも描けますよ。
藤巻 "誰にでも”はさすがに無理ですよ!(笑)。下書きもしないで描くんですよね。

矢島 下書きはできないんですよね。だから、思い切ってズバッと描く。
藤巻 それができちゃうのが凄い!
矢島 リメイクは自分らしいおしゃれができるので楽しいんですよね。安いシャツを買ってきてベルベットのリボンを貼ったり、シャツのえりにアンティークのボタンを縫い付けたり……。ネクタイのリメイクは男性にもおすすめです。誰しも2本か3本は大好きなネクタイがあるでしょう? でも若い頃につけていたネクタイだと、柄は大好きだけれど、太すぎてつけられないということがままあります。
藤巻 昔のネクタイは幅が10cm近くありましたからね。
矢島 そんなときこそ、リメイク! 僕自身もどんどんネクタイは細身仕様に変えてしまっています。
藤巻 タケシさんのサロンを作りたいね。島地勝彦さんのサロン・ド・シマジみたいに、週に何回かタケシさんがいてくれて、リメイクのアドバイスをしてもらえる。楽しいだろうなあ。

「ものを大切にする」の
本当の意味を捉え直す

矢島 日本人が「ものを大切にする」というと、箱に入れてしまいこんでしまうでしょう。フランス人は逆に、毎日使おうとする。たとえば、おばあちゃまからいただいた大事なパールのネックレスがあったとします。日本人の女の子は大切にしまっておいて、冠婚葬祭のときに使う。でも、パリの女の子はトレーナーにデニムという格好でも、パールのネックレスをしちゃうんです。
藤巻 まるで文化が違うんですね。
矢島 「もったいない」の感覚が違うんですよ。「傷つけるともったいないから特別なときだけ使おう」ではなく、「大切なものだから、毎日身につけよう!」になる。

藤巻 僕ね、60歳を過ぎたら、いざというとき、大事なものを誰にあげるかというリストを作ろうと思っています。終活じゃないですけど、せっかくなら大好きな人たちにあげたいなと思って。
矢島 僕なんてもう66歳! 70歳になったら作ろうかな。もしくは、早めにあげちゃうとか。好きなブランドのスカーフが200枚もあるんですよ。
藤巻 スカーフだけでそんなにたくさんあるんですか!
矢島 1950年代ぐらいのもので、女性っぽいモチーフは避けるというのを基準に買い集めたものです。さすがにこれだけあると壮観ですよね。
藤巻 他にもいろいろあるでしょう。
矢島 僕にとっては宝の山だけど、他の人にとってはどうかな、というものがたくさんあります(笑)

男性をステキに変える
「2:1」の法則

藤巻 最後に、中高年男性がおしゃれになるためのヒントを教えてください。
矢島 そうですねえ。例えば、スーツとシャツ、ネクタイの3つの中で、2つは同じ系統の色を選び、1つは違う系統の色を選ぶと、男性は格好よく見えるって言われているんです。
藤巻 今日の僕の服装でいうと……?
矢島 スーツとシャツがブルー系だから、ネクタイをグリーン系にしてみるとかね。
藤巻 なるほど! 今日は3つのアイテムが全部ブルー系だからなんとなく地味だったんだ!

矢島 世間にはえんじ色の小紋柄のネクタイがかっこいいとでも思っているかのようなおじさんがたくさんいるでしょう。そんなおじさんたちとは比べものにならないぐらい、藤巻さんはオシャレですよ。でも、この「2:1の法則」に気をつけていただけると、さらにステキになれます。
藤巻 ぐっとあか抜けて見えますね。さっそく、周囲にも教えます!


<対談を終えて……藤巻幸大から矢島タケシさんへ>

色を日常にとりいれることは、人生を華やかにする。タケシさんにお会いするたび、いつもそんな言葉が頭に浮かびます。パリでの初めての出会いから四半世紀が過ぎました。長かったような、あっという間だったような時間のなかで、タケシさんにはたくさんのことを教えていただき、数え切れないほどさまざまな影響を受けてきました。尊敬する先輩の背中を追い続けて、がむしゃらに走ってきましたが、気づけば、自分自身も教えを請われる立場にもなりました。2014年はこれまで以上におしゃれで、ハッピーな人が増えるよう、ますます突っ走っていきましょう!


■前編『「すみずみまで行き渡る美意識はどのように育まれたのか」
四半世紀近いつきあいになるという二人が考える「カッコいい暮らし」とは?

矢島タケシ
やじまたけし●ファッションデザイナー。1975年VANジャケット退社後、単身フランスに渡り、パリ在住13年。ソニア・リキエルやシャンタル・トマスがデビューした『FRANCE ELLE』のニットページを、日本人として初めて飾る。その後パリでデザイン活動の後、1993年に帰国。翌94年秋冬東京コレクションにて、メンズブランド『apres seize takeshi yajima』で日本デビュー。フレンチテイストの上品なデザインセンスに定評がある。ファッションの世界だけにとどまらず、トーク番組からバラエティ番組まで幅広いテレビ番組に出演。タレントとしても活躍中。

 

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