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デザイナー 矢島タケシ

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のお客様はデザイナーの矢島タケシさん。初めての出会いから数えると、四半世紀近いつきあいになるという二人が「カッコいい暮らしとは?」をテーマに、語り合いました。(前編)
後編はこちら

セーヌ川のほとりで鞄持ち!
パリデビューの忘れられない思い出

藤巻 パリでタケシさんに初めてお会いしたときのことは忘れられません。今でこそ、海外旅行も当たり前になっているけれど、当時は海外に行く人なんてほとんどいない時代ですよ。そんな時代に、タケシさんはパリで暮らし、海外のメゾンでデザイナーとして活躍されていた。何もかもが別世界で、世の中にはこんなにもカッコいい大人がいるのかと仰天したんですよ。
矢島 その頃はたしか、パリに住み始めて10年ぐらい経った頃でしたね。ちょうど、藤巻さんの伊勢丹時代の先輩が僕のお友達で、一緒に遊びに来てくれた。姐御肌の女性で「藤巻! タケシさんの鞄持ちなさい!」なんてハッパをかけられていましたよね(笑)
藤巻 そうそう、セーヌ川を見ながら鞄持ちをしたのが、僕のパリデビューでした。29歳の頃ですね。

矢島 レストランで食事をしたり、蚤の市を一緒にのぞきにいったりしましたね。
藤巻 ホント懐かしい。僕にとって、あのパリで過ごした時間が、ファッションの世界に足を踏み入れる最初の一歩ですよ。それまでも百貨店で婦人服を扱う部署にはいたけれど、単なる“デパートマン”に過ぎなかった。あのとき、タケシさんに出会わなければ、今の僕はないと思うんですよ。

「カッコよく暮らす」は
結果であり、目的ではない

藤巻 タケシさんのおしゃれのルーツって……?
矢島 最初はVANジャケットにいたんですよ。その後、パリに渡っている。だから、根底にはトラッドがあり、そこにパリのエスプリが混ざって……。
藤巻 タケシさんは柔軟だから、おそらく英国のエッセンスなど、いろいろな要素が加わっていますよね。
矢島 そうそう、ミックスされていますね。
藤巻 もしかしたら、それが「カッコいい暮らし」の原点かもしれませんね。じつは僕自身は「カッコよく暮らす」というフレーズに違和感を覚えるんです。カッコよく暮らしている人はタケシさんを始め、たくさんいらっしゃる。でも、そういった方々はカッコよく暮らそうと意識していないんじゃないでしょうか。自分が快適に過ごせるように暮らした結果、周囲から見ると「カッコいい」と思われているんじゃないかと思うんです。

矢島 それは言えますね。いろいろな要素がミックスされていて心地よい。でも、他人の目にはまとまって見える。それが、カッコいいということかもしれません。
藤巻 多重構造になっているけれど、軸がぶれないんですよね。僕も30代を過ぎた頃から、「変わった服装が好きだね」って言われるようになったんです。でも、今振り返ってみると、それは取り入れる範囲が広がってきたんだろうなと思うんです。
矢島 ミックスする楽しさを知ると、より人生が楽しくなりますよね。一色だけの世界よりも、カラフルに彩られている世界のほうがワクワクするでしょう?(笑)

すみずみまで行き渡る美意識は
どのように育まれたのか

藤巻 四半世紀なんて聞くと、我ながらびっくりしてしまうけれど、ホント長年に渡って、タケシさんに影響を受けてきています。でも、未だにマネできないのがパスタの食べ方! あんなにカッコよくパスタを食べる人って他に見たことがないですよ。
矢島 そう?
藤巻 あれはどうやっているんですか。
矢島 パスタをフォークでとるときに、一口で食べられるボリュームにすることぐらいなんですよ。そこで欲張ると、口の中に入れたときにモゴモゴしちゃう。人によっては、食べこぼしをした挙句、それを指で拾って口に入れたりして……! そんな姿を見せられたら、百年の恋も冷めるでしょ。
藤巻 ホント、タケシさんと食事をするときは緊張しますよ! いつもより、食べるスピードが遅くなるから、自然と食べすぎ防止にもなる(笑)

矢島 うちに遊びにきた若いコなんか、僕がキッチンに立った隙に「今だ!」と慌ててパスタを食べたりするもの。みんな、僕が口うるさいのをよく知っているから(笑)。
藤巻 その気持ち、わかるなあ!
矢島 でも、僕も最初からできたわけではないんですよ。レストランでレディファーストにのっとって振舞う作法もワインの選び方、注ぎ方など、TPOにふさわしい立ち居振る舞いはフランス人の友人に叱られながら覚えたんです。
藤巻 そうなんですか!?

矢島 もともと、どちらかというと細かいほうだったとは思いますけど、何しろ日本にいた頃は一人暮らしもしたことがなくて、炊事洗濯は全部親任せ。料理をするようになったのも、パリで暮らし始めてからですよ。
藤巻 お洒落なパリっ子たちは評価の目も厳しそうですね。
矢島 そうそう。しかも、日本人なら遠慮して言わないような場面でも、ズバッと核心をつくんです。「タケシ、その食べ方汚い!」と平気で言うし、食事中に隣同士で肘と肘がぶつかろうものなら、「ありえない!」と叱られる。毎日がその連続ですから、だんだんと肌で覚えていき、今の僕があるんです。
藤巻 いい話ですねえ。
矢島 ここまで来るまでの間に、どれだけ泣いたことか(笑)

自分らしい香りをまとう
という、大人の愉悦

藤巻 タケシさんが長く使い続けているお気に入りのアイテムって、どんなものですか?
矢島 まず、ひとつはドゥラメールのクリームです。何かのパーティか発表会で広報担当の方に「肌がきれいですね! ぜひ、うちの商品を使ってみてもらえませんか」と褒められて、それから15年ぐらいのおつきあいになるでしょうか。
藤巻 僕もタケシさんに教えてもらってから、ドゥラメール使っていますよ。ほら!(バッグからリップバームを取り出す)。
矢島 ホントだ(笑)。僕も、同じリップバームをいつも持ち歩いていますよ。
藤巻 タケシさん、香水は何を使っています?
矢島 僕はね、ずっとジョー・マローンなんです。以前はパリに行くたびに購入していたんですが、3年前ぐらいから日本でも買えるようになりました。

矢島 この香水は“重ねづけ”ができるところが気に入っています。
藤巻 “重ねづけ”というのは……?
矢島 複数の香水を使うことで、人とは違う自分だけの香りを生み出すことができるんです。
藤巻 なるほど。
矢島 季節やその日の気分に合わせて、香りの組み合わせを変えたり、量を調整したり……といった楽しみもあります。
藤巻 それはぜひ真似しなければ! さっそく使ってみます。

■後編『パリが育んだ感性で、日本を捉え直す』
研ぎ澄まされた感性に響いた”メイド・イン・ジャパン”は意外なアイテムでした。

矢島タケシ
やじまたけし●ファッションデザイナー。1975年VANジャケット退社後、単身フランスに渡り、パリ在住13年。ソニア・リキエルやシャンタル・トマスがデビューした『FRANCEELLE』のニットページを、日本人として初めて飾る。その後パリでデザイン活動の後、1993年に帰国。翌94年秋冬東京コレクションにて、メンズブランド『apres seize takeshi yajima』で日本デビュー。フレンチテイストの上品なデザインセンスに定評がある。ファッションの世界だけにとどまらず、トーク番組からバラエティ番組まで幅広いテレビ番組に出演。タレントとしても活躍中。

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