プロデューサー 中村貞裕

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはプロデューサーの中村貞裕さん。“世界一の朝食”で知られる「bills(ビルズ)」をはじめ、カフェやレストラン、ケータリング、ホテルなどさまざまな空間の運営からプロデュースまで手がける。“今”をいち早くキャッチし、常に人々を魅了し続ける男のモノ選びとは??。(後編) 前編はこちら

カバンの中身は“オール・ブラック”

藤巻 この間、『中村貞裕式 ミーハー仕事術』を読んでいたときも思ったし、今もこうして話していて再認識したんだけれど、俺と中村ってけっこう似てるよね。
中村 藤巻さんもミーハーですよね(笑)
藤巻 うん。
中村 でも、僕、ずっと藤巻さんに言えずにいたことがあるんですよ。
藤巻 えっ?
中村 (カバンから小物を取り出しながら)財布やキーケース、ノート、ペンケースなどの小物類から携帯電話やデジカメに至るまで、すべて「黒」で揃えているんです。
藤巻 ホントだ、凄いな(笑)

中村 色を決めておくと、いろいろ迷わなくていいじゃないですか。携帯電話の機種変更をするときに、何色にするかどうかで悩むといったような時間を省略したい。
藤巻 テーマカラーを決めちゃうとラクだよね。(カバンから小物を取り出しながら)俺の場合はブルー。
中村 僕の場合、「黒」にしたのはどちらかというと消去法。デジタルカメラなどでかっこいいものというと、たいてい黒。ならば、小物も黒で揃えてしまおうという発想です。でも、藤巻さん、“ネバー・ブラック”を標榜するくらい、黒が嫌いでしょう? だから、ずっと言えずにいました(笑)
藤巻 わははは。確かに“ネバー・ブラック”と言っているし、俺自身は葬式にもブラック・スーツは着ていかない。でも、他の人が持つ分には文句を言ったりしないよ(笑)
中村 頭ではわかっているんですけどね、つい……(笑)
藤巻 でも、ある一色で小物を揃えておくというのは生活の知恵だよね。迷わなければ、余計な時間もかからないし、持ち物に自然と統一感も出てくる。
中村 ずっと「黒」で来たんですけど、どこかのタイミングでガラリと「白」に換えようかなとも思ってるんですよ。スマートフォンを手に入れたときとか。

藤巻 スマートフォン! 俺もまだ持ってないんだよね。
中村 携帯電話でWEBを見たり、メールを打ったり……ということをあまりしないので、切実に欲しい理由がなかったりするんですよね。
藤巻 うん。ふつうに電話をかけてしまったほうが話が早かったりする。
中村 でも、ミーハーとしてはいい加減、持ってないとまずいだろうというところもあり……。藤巻さんのタブレット、使いやすそうですね。
藤巻 これくらい大きいと、俺でも何とかなる。
中村 なんですか、この可愛らしいカバー!
藤巻 韓国で買ってきたんだけどね、これを見せるとみんな笑顔になる。写真撮られるときってカバー側を見るでしょ。ちょっと可愛かったり、面白かったり、キャラと違うようなカバーをつけていると、一気に場がなごむんだよ。
中村 いいですね。俺も真似しようかな。

1の才能を100個集めれば、100の能力になる

藤巻 俺自身もミーハーだからよくわかるんだけど、ミーハーって必ずしも好意的には受け取られないじゃない?
中村 移り気だとか、“浅いヤツ”扱いされたりもする。誰よりも自分自身がそう思って、コンプレックスに感じたりするんですよね。
藤巻 中村の場合、ミーハーをポジティブにとらえられるようになったのは何歳くらい?
中村 20代後半から30代前半にかけてですね。20歳のときからつきあっている彼女??現在の奥さんなんですが、彼女は20代の頃からずっと、僕の“浅さ”に対して厳しかったんです。
藤巻 女性のほうが精神年齢高いからね。

中村 女性の場合、20代の頃から10歳、20歳年上の人たちと一緒に食事をする機会もあるから、余計差も広がる。彼女の周りにいるのは30代、40代のスペシャリスト。それに引き替え、僕は飽きっぽく、流行りものに食いついては、飽きたら次に行くを繰り返しているだけ。そんな自分にコンプレックスを抱きながらも、それはそれで性格なのでやめられないというジレンマがありました。
藤巻 性格はそうそう変わらないからね。
中村 でも、そのうち、「今は何が流行ってるの?」「話題になっている○○ってどうなの?」と聞かれるようになったんです。いろいろなことを知っていると、周りに頼られ、僕が憧れていた“ひとつのジャンルを極めているような人”にも興味を持ってもらえる。そう気づいたとき、ミーハーである自分を肯定できるようになりました。

藤巻 「情報を持ってる」というのも、人と仲良くなれる手段のひとつだよな。90年代の俺もそう。たまたま、僕はファッションという分野だったけれど、「詳しい」と認知されると、いろいろな人から声をかけてもらえるようになるし、仲良くなりたい人と仲良くなれる。
中村 特定の分野について深い知識があり、それを専門に仕事をする“スペシャリスト”と、僕のようなミーハーでは、ひとつのことを極めるのに天と地ほどの差があります。でも、スペシャリストが「100(の才能)×1」なら、僕は多くのことに興味を持つ「1(の才能)×100」というやり方で“100”を育てることもできる。自分に合ったやり方がわかると、すごくラクになるし、人生が楽しくなるので、ぜひみなさんにも見つけてほしいですね。

トレンドセッターが
“看板メニュー”を頼む理由

藤巻 最近、注目しているのはどんなもの?
中村 地方のお土産ですね。僕は初めて行く店では必ず、“看板メニュー”を頼むことにしているんですが、お土産もそう。好みに合うか合わないかはともかく、一回は買っておかなくてはいけない“王道”をせっせと買い込み、試しています。
藤巻 「名産にうまいものなし」なんて言われるけれど、名産品について実感を持って語れると、それだけで話のネタになるよね。
中村 そうなんです。お土産といえば、羽田空港の出発ロビーにある「東京食賓館」は面白いですね。
藤巻 あれはよくできているよね。
中村 自分が住んでいる町の名産品はなかなか知る機会がなかったりします。ここを押さえておけば、「東京から地方に行くとき、手土産はどんなものを持っていけばいい?」という質問に答えられるようになる(笑)

藤巻 中村のいいところは自分自身で現場に足を運び、そこにある空気を自分自身で感じ、当事者として考えられるところだよね。だから、口先だけの“評論家”では到達できない、面白い発想が生まれる。
中村 よく「たくさん企画を考えるのは大変でしょう」と言われたりするんですが、いちばん大変なのはインプットで、企画を立てる段階はむしろラク(笑)。でも、奥さんにはなかなか理解してもらえない。「遊んでるように見えるかもしれないけど、これも仕事なんだよ!」なんて言ったら、余計に怒られちゃう。
藤巻 あるある! 「何、言い訳してんのよ!」って叱られるんだよなぁ……。
中村 だから、「遊んでばかりでいいわね」と言われても言い返さず、「いつもゴメンね」といって、遊びに行く(笑)
藤巻 さすがだなあ。ホント、中村は遊ぶことにかけては天才だよね。俺も見習って、もっともっと遊ばなくちゃ!

<対談を終えて……藤巻幸大から中村貞裕さんへ>

初めて出会ってから、かれこれ20年近く経つけれど、お互いについてこんな風に話し合ったのは初めてかもしれません。ある時期、僕は上司でもあったけれど、一緒にバカをやり、既成概念を打ち壊し、面白いものをつくってきた仲間という意識のほうが強いですね。「最近、何が面白かった」「××には行ってみた?」という話で延々盛り上がることができる、ミーハー仲間でもある。面白そうと思ったら、一足飛びに飛んでいき、自分の目で見て、肌で感じる。「実践者たれ」の実践者として、これからもお互い頑張りましょう。SUNDAY JAM harajukuのパンケーキ、最高だったよ!

■前編 『「らしいね」と言われる“定番”をつくりあげる
オシャレに対するこだわりとモノの選び方を語り合う

中村貞裕
なかむらさだひろ●1971年東京生まれ。慶応大学卒業後、伊勢丹に入社。30歳を機に独立し、企画運営会社「トランジット」(現・トランジットジェネラルオフィス)を設立。カフェブームの仕掛け人として多数のカフェを手がけるほか、「クラスカ」「堂島ホテル」などホテルやマンション、商業施設など、数多くの空間プロデュースを手がける。オーストラリアの朝食の人気店「bills(ビルズ)」に、世界最大級のレンタルオフィス「the SOHO(ザ・ソーホー)」「渋谷ヒカリエ」の上層階に構える「THE THEATRE TABLE(シアターテーブル)」などが話題。2012年9月10日には逗子発パンケーキ店「『SUNDAY JAM』harajuku(サンデー ジャム 原宿)がオープン。

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