藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはプロデューサーの中村貞裕さん。“世界一の朝食”で知られる「bills(ビルズ)」をはじめ、カフェやレストラン、ケータリング、ホテルなどさまざまな空間の運営からプロデュースまで手がける。“今”をいち早くキャッチし、常に人々を魅了し続ける男のモノ選びとは??。(前編) 後編はこちら
「らしいね」と言われる
“定番”をつくりあげる
藤巻 知り合ってから、かれこれ20年くらいになるのかな。
中村 最初に会ったのはカフェのトイレです。当時の僕は伊勢丹に就職が決まったばかりで、せっかくカフェで居合わせたんだから挨拶をしたいと思い、トイレに行く隙を狙って、待ち伏せした(笑)
藤巻 当時から好青年だったよ。シャツかTシャツに、細身のコットンパンツみたいな格好をよくしていた。
中村 若い頃は早く「中村くんらしいね」と言われるようになりたいと思っていました。例えば、藤巻さんならたいてい、シャツにジャケットで、ブルーのものを身につけている。こうした“定番”があると、親しみやすい。
藤巻 お洒落すぎると、とっつきにくい印象を与えるというのはあるよな。
中村 僕自身がラクというのもあるんですけどね。日々考えなくてはいけないことがたくさんあるから、ファッションでいちいち、頭を悩ませたくない。そもそも、ファッションのトレンドの変化が早すぎて、勉強し続けるのが大変というのも、僕が伊勢丹をやめた理由のひとつです(笑)
藤巻 “定番”があると、悩まずにすむ。でも、定番に逃げ込むわけではなくて、その中でも冒険をすると、より楽しくなる。
中村 ちょっとだけ流行りものを取り入れるというのは、よくやっていますね。例えば、今日僕が着ているシャツは「サタデーズサーフ」のもの。でも、あまりに流行ってるので、その中でわかりづらいものを選んで買う。デニムは「Acne(アクネ)」です。
藤巻 Acneも流行っているよね。すごく人気がある。やっぱり、さすがだな。最先端を取り入れながら、お洒落すぎないという、さじ加減が絶妙だよ。
藤巻 靴も可愛いね。どこの?
中村 グッチです。
藤巻 こんなの、出しているんだ! 面白いな。
中村 昨年のものなんですよ。意外とみんな知らなくて、面白がってもらえる。
藤巻 俺も知らなかった。コムデギャルソンのジュンヤかと思っていた。
中村 靴で遊ぶのは、けっこうおすすめですね。ちょっと変わったものを身につけていると、今みたいに「いいね!」「それどこで買ったの?」と話しかけてもらえる。会話のフックになるんです。
会話のフックを作るなら、「靴」「眼鏡」「バッグ」が最強
藤巻 俺はどちらかというと、デニムにはトラッドな革靴を合わせたいほうなんだけど、最近、スニーカーも買うようになったんだよ。中村のテクを盗もうと思ってさ(笑)
中村 会話のネタということでいうと、靴と眼鏡、バッグの効果は絶大ですね。例えば、ジミーチュウのメンズラインが発表されたときに、そのスニーカーを履いていると、話題になる。パーティなどでも、知らない人が話しかけてくれるきっかけになる。
藤巻 この間、香港に行ったときに、クリスチャン・ルブタンのメンズのスニーカーが発売されたと聞いて、探しに行ったんだよ。日本ではなかなか手に入らないというから、絶対買って帰ろうと思ってたけど、サイズが合わなかった!
中村 そういうの、いいですよね。珍しいものを身につけていると、初対面でも話が盛り上がる。
藤巻 俺が眼鏡を一日何個も持って、シチュエーションに応じて変えてるのも同じ。ちょっとしたことだけど、記憶に残るよね。
中村 取材でね、「ファッションアイテムで集めてるものはありますか」とよく聞かれるんですよ。何かしら集めておいたほうが良さそうだなと思ったときに、面白そうだなと思ったのがラグジュアリーブランドのスニーカーでした。
藤巻 他ではあまり聞かないもんな。
中村 ファッションピープルにとって「ブランドもののスニーカーを集めてます」はけっこう恥ずかしいことなんだと思うんですよ。僕の場合はミーハーなキャラを売りにしているから、いいけれど、おしゃれかどうか、と言われると、はてなマークじゃないですか(笑)。
藤巻 いいね、すごくキャラが立っている。
中村 カーディガンを集めていた時期もあるんです。社内で“カーディガン王子”という言葉も流行らせた。でも、カーディガンってあまりにデザインに変化がなさすぎて、いまいち話が広がらなくて(笑)
藤巻 モノってスタイルなんだよな。モノそのものを買うだけではなく、「自分らしさ」を表現するアイコンを手に入れると考えると、モノ選びが変わるかもしれない。
中村 話のフックであり、名刺代わりなんですよね。
藤巻 俺の場合はトートバッグがそうだな。最近は“トートバッグ好き”として、声をかけてもらう機会も増えている。
中村 僕はこの間、リーバイスの取材に呼んでもらい、オリジナルデニムをつくらせてもらいました。これも、シャツ×デニムというスタイルをつくっておいたおかげですよね。
藤巻 いつか、ベストジーニスト賞とるかもよ。俺もとりたかったんだけど、デニムは追いかけきれない。中村に譲るよ!(笑)
モノも人も、惜しみなく与える人に集まるという真理
藤巻 伊勢丹にいた頃から、中村はすごく好青年で、アルバイトの人たちに丁寧に接していた。みんなに「ウメちゃん、ウメちゃん」と呼ばれて可愛がられていた。
中村 懐かしいですね。
藤巻 当時、その部署に「中村」がたくさんいて、その中でいちばん若いから「松竹梅の梅で、ウメちゃん」だと思ってたら、全然違ってたんだよな。つい最近、初めて聞いた。
中村 他にタケさん、マツさんがいて、その流れでウメちゃんと呼ばれるようになったんですよね。今さら否定するのも面倒なので黙っていたんですけど(笑)
藤巻 知らないまま、いろんな人に説明してきちゃったよ!
中村 この間、初めて種明かしをして、以来「どうして、ウメちゃんなんですか?」と一緒にいるときに聞かれると、2人で目があってニヤッとしてしまう。
藤巻 伊勢丹での最後の仕事はBPQC。
中村 衣食住すべてをワンフロアで同じテイストで完結するというのは、百貨店としては相当画期的な試みでしたよね。
藤巻 コスメや食器、音楽、ネイル、ペット……ライフスタイル全般、すべてを扱った。圧倒的に面白い人が集まりはじめた時期でもあったよね。
中村 僕にとっては、プロデュースの基本を叩き込んでもらった時期でもあります。既存顧客・既存PR力を持った人たちを巻き込み、大きな流れを作って行くやりかたは、藤巻さんに全部教わった。
藤巻 「ギブアンドテイク」なんて言っているようではまだまだなんだよね。「ギブアンドギブアンドギブアンドギブアンド……ビックテイク」を目指さないと(笑)。
中村 モノも人脈も、惜しみなく与える人のところに集まる。出し惜しみする人はかえって損をするんですよね。
藤巻 そうそう! 上司は部下に自分が与えられるものはどんどん与えるべきだし、若手はそれらを吸収して、上の人間を超えていく。誰かのジャンプボードになれたとしたら、それは最高にイケてる人生だと思うよ。
■後編『2人にとってのモノ選びの基準とは?』
中村貞裕氏が藤巻氏に20年間隠していた“秘密”を初告白!
中村貞裕
1971年東京生まれ。慶応大学卒業後、伊勢丹に入社。30歳を機に独立し、企画運営会社「トランジット」(現・トランジットジェネラルオフィス)を設立。カフェブームの仕掛け人として多数のカフェを手がけるほか、「クラスカ」「堂島ホテル」などホテルやマンション、商業施設など、数多くの空間プロデュースを手がける。オーストラリアの朝食の人気店「bills(ビルズ)」に、世界最大級のレンタルオフィス「the SOHO(ザ・ソーホー)」「渋谷ヒカリエ」の上層階に構える「THE THEATRE TABLE(シアターテーブル)」などが話題。2012年9月10日には逗子発パンケーキ店「『SUNDAY JAM』 harajuku(サンデー ジャム 原宿)がオープン。