藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”について、とことん語り合う「TalkGuest~通好きな逸品」。今回は作家の島地勝彦さんの仕事場兼バーであるサロン・ド・シマジにお邪魔し、“男を磨くモノ”について伺いました。(後編)前編はこちら島地勝彦さんの通好みな逸品はこちら
シングルモルトはシングルで飲み、紅茶はブレンドして飲むべきである
藤巻この間ね、知人が連れて行ってくれた店が凄く素敵だったんですよ。三島由紀夫が愛したオニオングラタンスープが名物メニューでね。まだ若いのに「どうしてこんな店知ってるの?」と聞いたら、「島地さんの本、ちゃんと読んでないでしょ」と叱られました。本の中に出てきますよ、と。
島地赤坂の「カナユニ」だね。あの店はもう、かれこれ46年くらい通っているかな。料理が当時から、ずっと変わらない。文字通り“かなりユニーク”な店なんだ。
藤巻島地さんはファッションはもちろん、食にも造詣が深いのが素晴らしい。広尾にあるイタリアンレストラン「オステリア・ルッカ」なんて、“シマジスペシャル”というメニューがある。こんなことができるのは、三島由紀夫か島地勝彦くらいじゃないですか(笑)。
島地あの店の紅茶は、茶葉のブレンドのやり方から僕が教えたんだ。ダージリンやアッサムなど単品で飲むのは、どうやら日本だけらしい。英会話のレッスンを受けている最中に、英国人の先生が入れてくれる紅茶があまりに旨いので、そのブレンドの秘密をなんとか聞き出したんだよ。
藤巻島地さんのご著書『知る悲しみ』に登場する「シングルモルトはシングルで飲み、紅茶はブレンドして飲むべきである」が持論のジェフ先生ですね。
島地そう。英会話はさっぱり上達しないけれど、彼のおかげでシングルモルトと紅茶の知識にはますます磨きがかかった(笑)。
藤巻サロン・ド・シマジには今、何本くらいのシングルモルトがあるんですか?
島地ざっと200本くらいかな。それも全部、封を切ってある。
藤巻味が落ちたりしないんですか。
島地そうならないよう、夏でも部屋の温度は24度に設定してある。スコットランド生まれのシングルモルトは東京の暑さに弱いからね。不在のときもエアコンは入れっぱなし。
藤巻贅沢ですねえ。
島地でも、これくらい愛情を注ぐと必ずブーメランのように自分に返ってくるんだよ。女性と一緒でね。
藤巻島地さんはシングルモルトを割るのに使うミネラルウォーターにもこだわりがあるんですよね。
島地そうそう。スペイサイドグレンリベットウォーターだね。これまで日本ではほとんど売れていなかったのに、僕があちこちで「シングルモルトはスペイサイドグレンリベットウォーターで割るのが最高に旨い」と書いてから途端に売れ出したんだよ。
藤巻また一つ、シマジ伝説が……(笑)。
百貨店×サロン・ド・シマジという
前代未聞のコラボが今秋、実現する
藤巻9月12日(予定)にはいよいよ、伊勢丹にサロン・ド・シマジがオープンしますね。
島地うちに遊びにきてくれた社長に“こんな空間を作りたい”と言われて、「ならば、バースペースを作ってください」とリクエストしたのは僕だけれど、まさか即座に「やります」という返事が返ってくるとは思ってなかった。
藤巻サロン・ド・シマジで島地さんにお会いしたことで、背中を押されたと社長が言っていましたよ(笑)。
島地熱い夜だったね。
藤巻一生忘れられない夜になりました。
島地そこでは僕は、コンシェルジュをやろうと思っているんだ。例えば、若いカップルがやってきたら、デートにぴったりな店を提案する。フレンチでもイタリアンでも中華料理でも和食でも、リーズナブルで抜群にうまい店を紹介するよ。
藤巻いいなあ。
島地これから商談を控えて緊張しているビジネスマンには“気付け薬”代わりに、シングルモルトを振る舞おうか。
藤巻「プレゼン前に立ち寄ると、商談がうまくいくらしい」なんて噂が立ったら面白いですね。
島地百貨店の中で昼間からシングルモルトのグラスを傾け、シガーを燻らせることができるなんて、前代未聞でしょう。そんな面白い状況を目の前にしたら、緊張なんて忘れてしまうよ。
藤巻確かに!
誰の人生にも必ず、太陽が燦然と
輝くような“真夏日”が訪れる
島地どんな人にも、星がひときわ強く輝くような一瞬が訪れます。僕はそれを「人生の真夏日」と呼んでいる。僕にとって、最初の“真夏日”は週刊プレイボーイの編集長時代。理想に向かって一丸となって働いてくれるスタッフに囲まれ、毎週100万部売り上げていた頃です。次の“真夏日”は67歳で物書きになったときにやってきた。
藤巻ちょうど僕が島地さんと初めてお会いしたのもその頃です。
島地氏素性もよく知らない男が満面の笑みをたたえながら、突然やってきて「島地先生、大好きです!」と、熱狂的な愛情をぶつけられた(笑)。
藤巻「君はじか当たりの人生だな」と褒めていただいたことが心に残っています。そうだ、俺のやり方は間違っていなかったんだと。これぞと思う人がいたら、どんどん会いに行ってしまえばいいんですよね。
島地礼儀を尽くして会いに行けば、たいてい会ってくれるものですよ。そこで話もろくに聞かず、門前払いするようならそこまでの人物だったということでしょう。
藤巻島地さんと出会ったことは、僕の人生に間違いなく大きな影響を与えている。
島地逆もまた真なり、ですよ。伊勢丹でサロン・ド・シマジを……という話も、藤巻さんとの出会いがあってこそ。僕は今年で71歳になるけれど、今年人生最大の真夏日を迎えるような気がしてならない。まあ熱中症にならないように注意しますけど。
藤巻新たなステージに突入ですね。
島地寝ても覚めても欲しくてたまらないものと出会う喜びをぜひ、大勢の方に味わっていただきたい。多少背伸びをしてでも手に入れたいというモノとの出会いがあれば、人は何歳からでも成長できる。分不相応な衝動買いをしたとしても、何ら問題ない。その分働けばいいんだよ。
藤巻130歳まで働く覚悟で頑張ります!(笑)
<対談を終えて……藤巻幸大から島地勝彦さんへ>
島地さんの処女昨『甘い生活』を読み、「男と女は誤解して愛し合い、理解して別れる」という名文句にガツンとやられ、いてもたってもいられず、会いに行った。そんな僕を島地さんは「“じかあたり”の人生だね」と褒めてくださった。島地さんにお会いするたび、「この人に会わなかったら、一生後悔する」という直感は我ながら正しかったと思います(笑)。たわいもない雑談にも知性が滲み、色気が漂う。そんな風にモノを語れる男は本当に素敵だし、僕自身もいつかそうなりたい。そのためにも日々、精進していきます。今年は百貨店業界にサロン・ド・シマジ旋風を巻き起こしましょう!
■前編 『男を磨く“モノ”との付き合い方』
模倣し、淫することで世界は広がり、センスが研ぎ澄まされていく
島地勝彦
しまじかつひこ●作家、エッセイスト。「週刊プレイボーイ」(集英社)を100万部雑誌に育て上げた怪物編集長であり、柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとする錚々たる面々と画期的な仕事を重ねてきた伝説の編集者として知られる。「PLAYBOY」編集長、「Bart」創刊編集長、集英社インターナショナル社長を歴任した後に、文筆業に転身。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する“お洒落極道”としての顔を持つ。『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』など著書多数。