作家 島地勝彦(しまじかつひこ)

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”について、とことん語り合う「ゲストインタビュー」。今回は作家の島地勝彦さんの仕事場兼バーであるサロン・ド・シマジにお邪魔し、“男を磨くモノ”について伺いました。(前編)後編はこちら島地勝彦さんの通好みな逸品はこちら

万年筆の荘厳さを知らないうちは、
まだ大人の男の領域に達していない

島地乾杯しましょう。(葉巻を取り出し)吸うでしょ?
藤巻ありがとうございます。お邪魔するたびに、いつも思うけれど、サロン・ド・シマジはホント素敵な空間ですよね。
島地僕が好きなものだけを集めた場所だからね。
藤巻シングルモルトに葉巻、万年筆……。僕もこれまで自分としてはめいっぱい散財して、それなりに“目利き”の鍛錬を積んできたつもりだったけれど、島地さんには到底かなわない!
島地「一点豪華主義」なんてよく言われるけれど、それでは美意識は磨かれない。本気でモノとつきあい始めたら、自然と愛情を抱く対象が広がっていくものだしね。シングルモルトが好きだと言いながら、シガレットを吸う男は信用ならないよ(笑)

藤巻ハハハハハ。シングルモルトにはやはり、葉巻ですよね。今日は“男を磨くモノ”について、島地さんにじっくりお伺いしたいと思っています。
島地まずは文房具だな。大人になったら、まずは万年筆を一本手に入れたい。
藤巻いいですねえ、万年筆! 
島地今さら毛筆を使えは言わないけれど、万年筆の荘厳さを知らないうちは、まだ大人の男の領域に達していないと言えるんじゃないか。
藤巻昔は中学や高校の入学祝いとして万年筆を贈るという習慣がありましたよね。僕も最初の一本は親父にもらったセーラーの万年筆。大人として認められたようで、すごく嬉しかったのを覚えています。
島地僕も生涯はじめての万年筆は“セーラー”だったよ。小学校4年生のとき、NHK全国作文コンクールで第一席に入賞し、賞品として頂戴したんだ。
藤巻小学生で万年筆ですか!?
島地同級生は当然、誰も万年筆など持っていなかったから、鼻が高かったよ。

時間の経過と共に色が変わる
インクがもたらす、余韻と遊び心

島地万年筆はそれ自体も重要だけれど、中に入れるインクはさらに重要だよ。せっかく、いい万年筆を持っていても、インクにまでこだわっている人は案外少ない。
藤巻島地さんのお気に入りは、パイロットが出している「山栗」ですよね。早速、僕も真似して使っています。
島地書いてすぐはブラックだけれど、しばらくするとセピア色に変わっていく。時間の経過を楽しませてくれるところが嬉しいね。
藤巻ホント、かっこいいし、切ない。ラブレターを書くのにもぴったり(笑)。
島地メール全盛の時代に万年筆でしたためた手紙やハガキを送ったら、さぞかし相手はびっくりすることだろうと思うよ。間違いなく、感動するだろうね。

藤巻島地さんは原稿を書くのもやはり、万年筆ですか。
島地いや、今はメールで送稿しなくちゃいけない時代だからね。67歳で物書きになり、最初は万年筆で書いていたんだよ。でも、万年筆で書くと結局誰かがパソコンで打ち直すことになるだろう。それもかわいそうだしなということで、練習した。
藤巻凄いですね。
島地もちろん、今も手紙は万年筆で書くよ。本はシャープペンシルで印を付けながら読むし、もちろん、普段はボールペンも使う。
藤巻どれもやはりお気に入りのものがあるんですよね。
島地シャープペンは「ヤード・オ・レッド」。英国の筆記具メーカーのものなんだけれど、替え芯を並べると、1ヤード(0.9144m)になることから、こう名付けられている。世界中のシャープペンシルのなかで、これ以上のものはないと言っていい。
藤巻遊び心の感じさせるネーミングもいいですね。
島地ボールペンは何といっても、スイスのカランダッシュだな。これらをペンケースに入れて持ち歩くのもまた、男の美学です。
藤巻筆記用具をスーツやワイシャツのポケットに挿すのは卒業しよう! と。

模倣し、淫することで世界は広がり、センスが研ぎ澄まされていく

藤巻(バッグから眼鏡を取り出して)これ、持ってきましたよ。島地さんの真似をして買った眼鏡!
島地じゃあ、俺もかけようか。
藤巻文房具から眼鏡、時計に至るまで片っ端から真似していますよね。おかげで、島地さんとお揃いのものがたくさんある(笑)。
島地僕もそうだったよ。25歳までは親父の真似をしてショートホープを吸っていたけれど、柴田錬三郎先生にお会いしたその日から、文豪の真似をしてラークを吸い始めた。その後、パイプと葉巻の味を知ってからは、もうあとには戻れない。今では週に30本はシガーをふかす生活をしている。
藤巻素晴らしい世界を知ってしまった者だけが味わう“知る悲しみ”ですね。
島地美しいモノを見て、大好き! と思っているうちは、まだまだ序の口だよな。重要なのは「淫する」ということ。美しいものに対して淫らになるという気持ちがあれば、おのずとセンスは磨かれていく。

藤巻「淫する」か……。わかるような気がします。島地さんと一緒にいるとどんどん世界が広がり、最高に浪費家になる。
島地みんなそう言うんだよな。
藤巻でも、おかげで勤労意欲にも火がつきまくるので、これはこれでいいのかなと(笑)。
島地僕も同じだよ。美しくて変わったものを見つけると買わずにはいられないし、そのために働いているようなもの。(iPadケースを取り出し)このケースもそう。
藤巻iPadも使っていらっしゃるんですか!?
島地ケースを衝動買いした後に買ったんだよ。中に入れるものがないと格好がつかないだろう?
藤巻ハハハハハ。
(後編へ続く)




■後編『前代未聞のコラボが今秋実現!
サロン・ド・シマジから生まれる新たなコラボレーションをご紹介。



島地勝彦
しまじかつひこ●作家、エッセイスト。「週刊プレイボーイ」(集英社)を100万部雑誌に育て上げた名物編集長であり、柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生をはじめとする錚々たる面々と画期的な仕事を重ねてきた伝説の編集者として知られる。「PLAYBOY」編集長、「Bart」創刊編集長、集英社インターナショナル社長を歴任した後に、文筆業に転身。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する“お洒落極道”としての顔を持つ。シガーダイレクトクラブ会長。『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』など著書多数。

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