三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長 大西洋

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストは三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長です。 百貨店業界の風雲児として名高い大西社長のモノ選びとは…。(前編)
後編はこちら

類い稀なる男たちが集い、
「サロン・ド・シマジ」が誕生

藤巻 作家の島地勝彦さんがプロデュースする「サロン・ド・シマジ」が新宿伊勢丹メンズ館8階にオープンしてからもうすぐ1年になりますね。
大西 藤巻さんに「すごく面白くてお洒落な人がいるから」と、島地さんを紹介していただいたのがきっかけでした。
藤巻 絶対にお二人は気が合うだろうという確信はあったし、島地さんの書斎もぜひ大西社長にお見せしたかったんです。この連載でもお邪魔していますが、男の憧れを凝縮したような場所です。でも、まさか伊勢丹の中にあの部屋を再現しようという話になるとは夢にも思っていませんでした。
大西 圧倒的なコレクションと、あの雰囲気。その背景にある島地さんの想いに感動してしまった(笑)

藤巻 島地さんは平然と「僕は作家だから原稿を書ける場所も、シングルモルトを飲んだり、葉巻も吸えないと困るよ」なんて言うわけです。すると、大西社長が「わかりました。やりましょう!」とおっしゃる。あれは本当に驚きました。以前から凄いと思っていたけれど、大西社長の決断力は凄まじい。
大西 いえいえ、それほどのものでは……。実際、サロン・ド・シマジのときも担当者に「こういうサロンを作りたいんだけれど、どうだろうか」と相談してから決めたんですよ(笑)
藤巻 最高に楽しい夜でしたね。凄い人同士が逢うと、ものすごい化学反応が起こるということを、改めて実感しました。でも、島地さんが「新入社員の訓示を代わりに考えてあげよう」と大西さんにアドバイスを始めたときは度肝を抜かれました。
大西 そうそう。今年の入社式で、島地さんに教えていただいた「アカの他人の七光り」の話をしたんですよ。
藤巻 ホントにお話されたんですか!?
大西 島地さんの最新刊『迷ったら、二つとも買え!』も社内の若手チームに勧めています。みんな買って読んでいますよ。
藤巻 あの本も面白いですよね。バイヤー教育にもぴったり!
大西 百貨店を面白くするには、まず若手を育てることだと思っています。例えば、藤巻さんにもご協力いただいている若手バイヤーの勉強会。これは閉店後に有志で行っているものです。こうした経験を積み重ねた20代、30代の方々が40代になる頃、百貨店業界にとどまらず、小売業界や流通全体を進化させられるような、土台づくりをしていきたいという想いもあります。

百貨店の真髄は「販売」にあり!
大切なことはすべて売り場で教わった

藤巻 大西社長はホント気さくな方で現場をすごく大切にしていらっしゃる。売り場に行くと、若いスタッフたちがパーッと寄ってくるんですよ。これまでいろいろな社長にお会いしてきたけれど、あんなに現場のスタッフに慕われている社長はそうそういらっしゃらない。
大西 百貨店でいちばん大切で、大変な仕事は店頭での販売だと思っています。僕も入社してまず最初の3年は徹底的に販売の仕事でしごかれました。
藤巻 紳士服を担当されていたんですよね。
大西 7年間紳士服を担当し、その後、別のプロジェクトに参画した後、再び紳士服に戻ってきました。
藤巻 僕は伊勢丹に入社して配属されたのは婦人服で、最初の仕事はバーゲン品の販売でした。売り場スペースはたった3坪で、扱う商品はいわゆる“売れ残り”です。でも、工夫次第で売れる。この商品はなぜ売れなかったのか、売るためにはどうすればいいのかを徹底的に考えさせられました。

大西 今振り返ってみても、店頭で販売をやっていた時期がいちばん大変(笑)。自分の体調がどうあれ笑顔でお客様に接し、潜在ニーズを読みとり、なおかつ、販売実績をあげる必要もある。百貨店の基軸をなす仕事ですよね。
藤巻 長年、百貨店の現場に立ってこられた大西社長から見て、かっこいい大人の男たりうる装いやセンスを磨くためにクリアすべき課題とはどのようなものだと思いますか。
大西 靴選びですね。素晴らしいスーツを着ていて、決して経済的にゆとりがないわけでもないという方が冴えない靴を履いていたりする。
藤巻 ああ! “男のスーツは七難を隠す”とよく言われますけど、靴とネクタイは逆にセンスの有無がはっきりわかってしまいますね。いい靴はきちんと手入れをすれば10年、20年と保つわけですから、ある程度の金額を投資しても、決して高い買い物ではないはずなんですが……。
大西 僕も30代ぐらいに買った靴を未だに履いています。靴底は3年ぐらいごとに張り替えが必要ですが、気にいった靴を修理しながら履くのもまた楽しいものです。

大人だからこそ楽しみたい。
衝動買いという愉悦

藤巻 大西社長はご自身が買い物をされるとき、何かルールのようなものを決めていらっしゃいますか。
大西 スーツや靴は毎シーズン、自分で買いに行きますが、バッグやネクタイといった小物はふと気がついたときに、店頭で目に止まったものを買うことが多いですね。
藤巻 男の衝動買いはいいですよね。
大西 小物類は出会いのものですから(笑)
藤巻 ちなみに、直近で衝動買いされたものは何ですか。
大西 ふと思い立って購入したのはカラーパンツとカラージャケットを購入しました。景気にも影響されているのか、今年は暖色系、とりわけ明るい色が売れているんです。売り場でせっかく勧められたので、試しに着てみようかと。普段は仕事柄、ほとんどダークスーツなので、あまり着る機会はないんですが(笑)。

藤巻 この革小物もお洒落ですね。
大西 どれもSOMESのものです。国内唯一の馬具メーカーなんですが、ハンドメイドでバッグやペンケースといった革小物も作っています。
藤巻 本社は北海道にあるんですよね。
大西 そうそう。確か7~8年前に青山に専門店ができました。伊勢丹でも本館とメンズ館で取り扱っています。
藤巻 SOMES のアイテムにはどれも強くてしなやか。“実用の美”を感じさせますよね。

大西洋
おおにしひろし●1979年慶応義塾大学商学部卒業、伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社。紳士統括部長などを経て、2008年に三越常務執行役員、伊勢丹常務執行役員。翌09年伊勢丹社長。11年三越伊勢丹社長。12年2月より現職。

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