俳優・クリエイターとして活躍する井浦新氏が、10代から携わってきたファッション分野の経験を生かして展開するブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY(エルネスト・クリエイティブ・アクティヴィティ)」が藤巻百貨店に登場する。まずはじめは、名だたる有名メゾンから指名を受けるなど、そのクオリティの高さが世界へも知られている「カイハラ」のデニム生地を使ったアイテム。今回は井浦氏とカイハラ株式会社・貝原淳之氏の二人に互いのデニムへの愛や経年変化の味わいを大いに語っていただいた。そして2016年に行われたデニムを船の帆に使ってエイジングさせるという試みは、二人のデニムへの熱意がもたらした世界初の一大プロジェクトだった――。

年輪のように時を刻む
デニムを育てる味わい深さ

井浦 デニムは昔からすごく好きでした。ジーンズって本当に履くたびにどんどん変化していくんです。気に入ったものに愛着が湧くのは当然ですけど、デニムの場合は「自分がここまで育てた!」という感覚があるから、より好きになっていきます。付き合いの古いものでは10代から育ててきているデニムもありますよ。
貝原 そう、デニムというのは「歩み」がわかりますよね。生活をしていく中でペンキが落ちてしまったりしても、それもまた思い出になると思うんです。「ああ、あの時に付けたシミだったな」と回想できる。それはデニムの楽しさのひとつですよね。他の生地は破れてしまったらそこでおしまいだけど、デニムの場合はそれもまたアリ。破れているのがファッションになるのもデニムの魅力です。

ワークからファッションへ
デニムの価値が劇的に変わった

井浦 確かに、自分だけの物語がそこに作られていくようです。60~70年代に撮られた写真を見ていると、全身デニムで作られたスーツを着ている豪傑がいたりして、「デニムのスーツってやってもいいんだ!」と驚きました。
貝原 着て行けるところは限られていたでしょうけど、おもしろいですよね。ジーンズが日本に入ってきた頃は、アメリカの自由と挑戦の象徴と言いますか、カルチャーとして、若者の自己主張としての意味合いが強かった。そこからファッションとして本当に幅広い場所で着て行けるようになったのは2000年代くらいからという気がしています。

貝原 ファッションアイテムになった一番のきっかけはおそらく、ラルフ・ローレン氏がタキシードにジーンズを合わせてショーに出たとき。「こんな組み合わせがあるんだ!」とみんなびっくりした。パーティーやホテルのドレスコードでジーンズはNGだったのが、それ以降ガラッと考え方が変わって、いろんなオケージョンで使われるようになりました。いまやビジネスの場でもデニムを履いているなんて当時は想像もできなかったのではないでしょうか。

2016年の7月下旬から8月初旬にかけて、デニム生地をつなぎ合わせた8枚の大きな帆で瀬戸内海をクルーズする「旅するジーンズ」プロジェクトが行われた。海の上で潮風を受け、太陽を浴びてデニムの経年変化を試みる。

経年変化に魅せられた二人
新たなる挑戦の船出

貝原 そんな「変化する素材」としてのデニムはいま、はじめからダメージ加工をしているものや色落ちを再現したものがたくさん出ているわけですが、これを「自然の力によって変化させる」とどうなるのか? という興味がありました。我々の本拠地である福山市は瀬戸内海に面していて、日本のデニムの一大産地でもある場所です。そこを航海する船の帆にデニム素材を使えば、いままでにない経年変化が見られるのではないか。そうして世界初の試み「旅するジーンズプロジェクト」がはじまりました。

井浦 潮風と太陽で、しかもただ放置しているだけじゃなくて実際に帆として使って、渡航していきながら育てるという壮大なお話にロマンを感じました。いったいどういう色になって帰ってくるのかわからないことも含めて、これはおもしろいなと。
貝原 そうして新さんにも加わっていただいて、実際に舵を握っていただきましたが、デニムへの風の当たり方が舵の切り方で違うし、8枚の帆のパートでも違う。直射日光と海の水面からの照り返しと、日々の気候がまったく違う中で起きる変化が楽しみですね。過酷な状況がデニムにどんな作用を及ぼすのか。

井浦 それから航海が終わった後、デニム生地をつなぎ合わせた大きな8枚の帆をバラバラにしていって、TシャツとiPhoneケースを作りました。デニム部分を触ってみるとやっぱり新品とも加工品とも異なる感触があります。薄い・濃い・中くらいと3段階の色があって、それぞれにアタリも出ています。

貝原 帆によって変化の具合が違うでしょうから、「どの帆をどのアイテムに使おうか?」と選んでいく楽しみもあったのではないでしょうか。
井浦 その通りです。さらに、今回はいわば天然の加工がかかっているので、ここからの色や風合いの変化の仕方も今までとは違うと思うんですよ。アイテムとなって旅立っていったあとも、どういう経年変化を起こしていくのかが本当に楽しみです。

井浦新(いうら・あらた)
1974年東京都生まれ。20代よりファッションモデルをはじめる。98年に映画『ワンダフルライフ』に初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。
現在、『NHK日曜美術館』の司会を担当するほか、『一般社団法人 匠文化機構』にも従事し、日本の手仕事、歴史、伝統文化を未来に繋げ拡げていく活動を行っている。さらに京都国立博物館の文化大使や、「SAVE THE ENERGY PROJECT」のアンバサダー、そしてアパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」のディレクターを務めるなどフィールドは多岐にわたる。2017年秋に主演映画「光」、「ニワトリ☆スター」などの公開が控えている。

貝原淳之(かいはら・ただゆき)
1971年広島県生まれ、カイハラ株式会社専務取締役。大学卒業後、大手総合商社で繊維業界と貿易関連のノウハウを学んだ後、2001年にカイハラ株式会社へ入社。2003年に常務取締役に就任。2014年より現職。デニムに関する豊富な知識と柔軟な発想をベースに、カイハラの新たな可能性を切り拓くべく手腕を奮っている。

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