江戸切子界の巨匠がついに藤巻百貨店に登場!
万華鏡のようなカットは、江戸切子の歴史そのものを映し込む
■達人たちのマインド色濃く残す作家、篠崎英明氏が初登場
誤解を恐れずに言えば、江戸切子は江戸時代にルーツがあるものの、明治期に本格稼働した工芸であり、戦後は単に「カットガラス」と呼ばれ継承されてきた文化だ。それを「江戸切子」としてしっかりと個性を打ち立て、いまにつながる歴史を作ってきたのは、昭和中期に活躍した巨人たちの功績があるから。現在の江戸切子職人たちは皆その弟子筋であり、次世代へ技術をつなげていくことに心を砕く手練ばかりがひしめく。そして、先人のマインドを特に色濃く受け継いでいるのが今回ご紹介する「篠崎硝子工芸所」の伝統工芸士、篠崎英明氏だ。父であり、江戸切子の名人である篠崎清一氏が作った工房を2代目として切り盛りし、一目見て「篠崎さんの切子だ」とわかるような個性的な作風の切子を作ることをモットーとする。現代の江戸切子界の巨匠たる英明氏の作品が、満を持して藤巻百貨店に初登場!
■父から2代で盤石となった篠崎硝子工房の礎
父、篠崎清一氏は群馬県に生まれ、疎開でこの地に来ていた清水硝子の職人と出会い、戦後に上京し清水硝子で職人として働いた。その後いくつかの工房を渡り歩いたのち、25歳で江東区大島に篠崎硝子工芸を作り独立。住み込みで職人を雇いながら主にガラス会社の下請け仕事をしていた。転機となったのは百貨店で見たカガミクリスタルの切子。ケースに鎮座する立派な姿は、「いつかこの仕事をしてみたい」と職人魂を揺さぶった。その後、見事カガミクリスタルの切子を請け負うようになり、英明氏も職人として工房に加わる。が、バブル崩壊後に仕事は激減。窮地を救ったのは、またもや百貨店での出来事だ。清一氏がカガミクリスタルの切子をカットしたのは自分だと申し出たところ、器のバイヤーが目を見張り、篠崎硝子工芸として置いてみないかと誘ったのだ。その縁はいまでも続いており、関東・中部・関西で展開する百貨店の主要な江戸切子として唯一無二の存在感を発揮している。「父をはじめ、江戸切子の先人たちはとんでもない技術を持つ人たちがゴロゴロいましたから、それを受け継いで身をもって伝えていくのが自分の役目と思っています」(英明氏)。
■最高品質のクリスタルガラスが可能にする篠崎氏の表現
篠崎硝子工芸にうかがって、英明氏の特別な切子を見せていただいた。これらは売り物として作ったものではなく、江戸切子作家の技術の粋を尽くして作り上げた「逸品物」と呼ばれる作品で、仮に売価をつければ数百万円にもなる。「丸く削ったガラスからのぞいたときに、向こう側に玉がいくつも映り込んで見えるでしょう? これを計算して入れるのがウチの作風と言えます」(英明氏)。もうひとつの特徴は最上級のクリスタルガラスを使えること。30年以上続くカガミクリスタルとの縁で、同社のガラス生地を使える数少ない切子作家でもあるのだ。この希少なクリスタルの良さをうかがうと、篠崎氏はまず「最高でしょう」と一言つぶやいた。「色被せの安定感、口元の肉厚具合、泡や不純物の少なさ。そもそも美しい上にブレが少ないので、質の高い切子作品を作ることを可能にする。これはなかなかできることではないんです」(英明氏)。意外に思うが、ことクリスタルガラスにかけてはオートメーション化された工業製品にはほど遠く、いまなお人の手でひとつひとつ作られている。そうしてできた一級のクリスタルを、これまた一級の腕で削っていき、篠崎硝子工芸の江戸切子が完成する。
■細かな花の小紋が咲き乱れ、極上の体験を作り出す
今回の「玉小紋」は、カガミクリスタルによる薄いグレーカラーのクリスタルガラスを使い、小さな花を刻み独自の世界観を作り出している。「十字に刻んだ中心にプチッと小さく、マッチの軸よりも小さい道具で玉を入れています。これが花であり、全体を小紋柄に見立てました。幾何学模様が主流の江戸切子の中で、そうじゃないものを作りたかったんです」(英明氏)。玉の向こうに万華鏡のように柄が映り込む様は、こちらも先ほどの「逸品物」の延長上の作品であることを告げている。横から見ると底の菊のカットが浮いているように見えるのも、もちろん英明氏の計算のうちだ。「この形なら、氷を入れて焼酎やウィスキーを飲んだり、日本酒をたっぷり入れたり、ストローを差してジュースでもいい。どんな飲み物でもふさわしいんんじゃないかな」と英明氏は言う。見ること、実用すること、どちらも楽しめるフリーカップとして。そして江戸切子の歴史をつなぐアイテムとして。手に入れたい逸品だ。
アイテム詳細
素材:クリスタルガラス
本体サイズ:高さ9.6cm×口径7.6cm
化粧箱サイズ:H11.6cm×W10.5cm×D10.5cm
容量:約300ml
重量:約346g
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