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島倉堂の鎚起銅器

江戸時代後期、仙台の渡り職人によって伝えられ、新潟県燕市で発展した「鎚起銅器(ついきどうき)」。今や世界に名を馳せる“燕ブランド”の礎を築いた技術でありながら、その伝統を継承する工房は今や両手で数えられる程度である。そんな鎚起銅器の技を今に伝え、唯一無二の製品を作り続ける「島倉堂」に話を伺った。

その湯沸かしは、たった一枚の銅板から生まれる

その湯沸かしは、
たった一枚の銅板から生まれる

置いておくだけで風景がピシッとしまって見える、そんな湯沸かしがある。どっしりとしたフォルムの、得も言われぬ存在感。注ぎ口やツルの優美な曲線、心地よい不均一さを感じる独特のテクスチャーには、繊細な職人の手技が見え隠れする。実はこちら、本体から注ぎ口まで、たった一枚の銅板から作られたもの。表面の細かな凹凸は、銅板を一回一回鎚で叩いた証なのだ。「鎚起」という伝統技術をもって完成するこの湯沸かし。手掛けるのは、親子二代にわたり鎚起銅器の伝統と技術を受け継ぐ「島倉堂」だ。金属加工の町・燕に240年前から形を変えず息づいてきた職人技を存分に堪能できる逸品が、藤巻百貨店に登場する。

1カ月間、叩くことでのみ表現する究極の一点モノ

1カ月間、叩くことでのみ表現する
究極の一点モノ

設計図もなしに経験と勘を頼りに作り上げていく技術は、最低でも10年は修行が必要と言われる鎚起。銅板を焼きなましながら、鎚で叩いて打ち締め、形をつくる。簡単に言うとそれだけである。段階によって道具を変えながら、繊細な注ぎ口の形状までを「叩くこと」のみで生み出してゆく様は、見事としか言いようがない。銅を叩いて成形してゆくことを「うち絞り」と呼ぶが、その名のとおり、、叩いて伸ばすのではなく絞ってゆく(縮めてゆく)のが鎚起銅器の特徴。一つの湯沸かしの完成までに費やすのは、およそ1カ月。職人の手で一つ一つ作られる品々は、すべてが一点モノである。

完璧なフォルムを追い求めて道具もすべて手作り

完璧なフォルムを追い求めて
道具もすべて手作り

工房から響いてくるのは、銅板をカンコンと叩く高い音。中をのぞけば大量の金槌や当てがねの道具類。これらはすべて手作りだという。製品の形状に合わせ、道具から生み出すのが「島倉堂」のやり方だ。鎚起銅器の雄として名高い「玉川堂」で15年の修業を積んだ後、島倉板美氏が工房を興したのは昭和42年のこと。今は、初代と並び伝統工芸士に認定されている二代目・政之氏がその屋台骨を支えている。「製品を見るとだいたいどっちが作ったものかわかります。初代はダイナミック、私は緻密といったところでしょうか」と政之氏。「とにかく一発で満足した形が出来上がることは皆無です。膨らませたり、削ぎ落としたりを繰り返し、自分が納得できる見え方、バランスをその都度追求しています」。職人歴28年、二代目が今なお追い続ける鎚起銅器の世界はあまりに奥深い。

親から子へ、そして孫へ表情を変える銅器は世代を超える

親から子へ、そして孫へ
表情を変える銅器は世代を超える

鎚起銅器の最大の魅力は「経年変化」だろう。酸化することで古色に変化してゆく銅は、水洗い後にからぶきすることで独特の色ずれと光沢が生まれてゆく。「革製品と同じように、新品はそれはそれでよし、古くなればその分味わい深い表情が生まれます。きちんと手入れをすれば、文字どおり一生モノです」と政之氏。実際、島倉家の銅製茶筒は初代の独身時代から61年活躍し続けているという。もちろん、道具としての良さも忘れてはならない。殺菌作用のある銅は水をまろやかにし、旨みをぐっと引き出してくれる。熱伝導率はアルミの2倍、鉄の5倍、ステンレスの25倍ともいわれ、それだけお湯が早く沸くというメリットも。ひとつの道具を一生、さらには世代を超えて使い続ける。そんな心の豊かさをもたらしてくれる逸品を、ぜひ堪能してほしい。

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