空色をガラスに閉じこめ、宝石のような輝きの切子に
江戸時代から伝わる「大阪切子」の技を見よ
■失われかけた技術を繋ぐ。「大阪切子」の継承者
ガラスに空の色を閉じ込めたら、もしかすると宝石のようにキラキラと輝いているのではないか。一目見ればそんな想像をせずにはいられない切子がこのたび登場する。この「大阪切子」、名前を聞いてピンと来る方は決して多くはないはずだ。江戸時代に長崎に入ってきた西洋のガラス文化が大阪にも伝わり、切子が生まれたのがそもそものルーツ。だがその後、大阪の切子は産業としては縮小してしまい、現在ではわずか6件を残すのみに。「この技を絶えさせるわけにはいかない」と大阪切子の伝承に力を注ぐ切子職人の一人、安田公子氏のイマジネーションが生み出したのが今回の「一天」だ。このグラデーションは、他の切子とはちょっと違う感覚を見る者にもたらす。
■大阪切子界の若手ホープ。安田ガラス工房
安田氏は2017年に独立した若手の切子職人。もともとは企業に勤めていたが、一生続けていける奥深い趣味を探しているうちに切子に出会う。大阪切子の最後の職人といわれていた高橋太久美氏に本格的に弟子入りし約10年間、切子制作に打ち込んできた。「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2017」の大阪代表に選出された、大阪工芸界で注目すべき人物の一人だ。びっしりとカットを入れた切子を好み、そしてそれらすべてを自らの手で磨き上げていく。「手磨きの工程を経ると『温かみのある光』が出る気がするんです。そんな人の手による柔かさや、磨く人によって異なる『職人の色』が好きなので、手磨きならではの質感を追い求めていきたいですね」(安田氏)。伝統工芸品を目指し、仲間と大阪切子保存会を結成。大阪切子を次世代へ繋ぐ活動も始めている。
■作家に特注したレアなガラスで時間を表す
江戸切子によく見られるという菊繋ぎ文と、薩摩切子の特性である「ぼかし」をミックスした表現ができないかと試行錯誤を重ねていた安田氏。「一天」はそれらの技と、特注のオリジナルガラスが組み合わさってできた逸品だ。ガラスは大阪の吹きガラス作家に依頼し、外被せ(オーバーレイ)という手法で色を重ねること、なんと3色。青・赤・黄色の層をなし、高度な技術を求められるので生地自体がとても希少だ。アーチ型にスパッと削った透明部分には、赤や黄色を部分的に残しており、安田氏のカットも困難を極める。「自然の景色や移り変わりを表現したいと思っていて、これはその中でも『空』の時間の変化をガラスに映した作品だと思っています」(安田氏)。
■朝と夕をイメージ。こんな色の切子を見たことある?
ロックグラスよりもすっぽりと手に収まる、女性でも持ちやすいスリムな形状。ビールや日本酒、ジュース、どんなドリンクを楽しんでもOKだ。二つのカラーは、それぞれ「朝」と「夕」の空の色をイメージしている。「朝」は太陽が徐々に昇って世界を光で照らしていく直前、地平線がピンクに染まる瞬間の色。うっすらとした青が暁の模様を物語っている。「夕」は夕焼けに染まりつつあるオレンジの空。さあ家に帰ろう、そんなセリフが出てきそうなノスタルジックな情景をガラスに閉じ込めている。こんなドリーミンな切子は、東西を見渡してもなかなか見つからない。安田氏独自の世界観をぜひその手の中で感じていただきたい。