伝統紋様がひとつの宇宙を映しこむワザありロックグラス
Mr.伝統工芸士・篠崎英明氏のカットで魅せる”艶”八角籠目が登場
■大胆にして繊細、江戸切子の巨匠が手がけた美フォルムグラス
端正な八角籠目が、丸いグラスの側面を大胆にぐるりと覆う。江戸切子の代表的な柄でありデザインひとつで粋にも野暮ったくもなるところを、優美で粋だがどこか艶っぽく仕立てたのは篠崎英明氏。その作品は百万を越すような逸品ものでも買い手がつく、江戸切子の巨匠そのひとだ。底へとギュッと絞り込んだ袴の抉りに丸いグラスの膨らみは、女性が細い指を這わせて持てば、八角籠目の伝統柄が指先を彩る大粒のジュエリーのような華やかさ。丸氷がストンと入る大きさであるのに、手への収まりが心地よい造形。そして艶やかな発色が美しいガラス生地は、扱うことの許された江戸切子職人がごく限られた、カガミクリスタルによる最高品質のクリスタルガラス。希少で個性的な色を品良く、他にない逸品にしている。日本酒や蒸留酒はもちろん、酒の色、柄の映り込みやキラキラと光を孕んだ手の中のグラスを眺めて飲んで楽しめる、江戸切子との時間を今こそ手中に収めて見てはいかがか。
■数多の受賞歴を持つ、江戸切子の系譜を繋ぐ伝統工芸士として
そもそも江戸切子はひとつひとつが職人の手による「作品」である。しかし江戸切子自体は江戸時代にルーツがあるものの、明治期に本格稼働した工芸であり、戦後は単に「カットガラス」と呼ばれ継承されてきた文化だ。それを「江戸切子」としての個性を打ち立て、いまにつながる歴史を作ってきたのは、昭和中期に活躍した巨人たちの功績だ。現在の江戸切子職人たちは皆その弟子筋であり、次世代へ技術をつなげていくことに心を砕く手練がひしめいている。そして、先人のマインドを特に色濃く受け継いでいるのがこの「篠崎硝子工芸所」の伝統工芸士、篠崎英明氏だ。父であり、江戸切子の名人である篠崎清一氏が作った工房を2代目として切り盛りし、一目見て「篠崎さんの切子だ」とわかるような個性的な作風の切子を作り続ける。2017年の江戸切子新作展での東京都知事賞、2018年の経済産業省関東経済局長賞など、20年以上ほぼ毎年多くの作品展やコンクールで受賞作品に選ばれるその技術、センスともに江戸切子界の「巨匠」の呼び名にふさわしい。
■最上級のガラス生地に、最上級のカットで応えた「作品」
篠崎硝子工芸のもうひとつの特徴は最上級のクリスタルガラスを使っていること。国産クリスタルガラスの最高峰、カガミクリスタルとの長年にわたる付き合いがあり、同社のガラス生地を扱える数少ない切子作家でもある。この希少なクリスタルの良さをうかがうと、篠崎氏は「きれいですよ」とまず一言、そして「色被せの安定感、口元の肉厚具合、泡や不純物の少なさ。そもそも美しい上にブレが少ないので、質の高い切子作品を作ることを可能にする。これはなかなかできることではないんです」と続ける。切子作品だけでなく、材料のガラス生地になるクリスタルガラスも、今なお人の手でひとつひとつ作られている高い技術からしか生まれない。そうしてできた一級のクリスタルを、これまた一級の腕で削り、篠崎硝子工芸の江戸切子が完成するのだ。覗き込めば底菊がハラハラと万華鏡のごとく揺れ散りばり、繊細な削りが輝きを拓く。クリスタルガラスと職人の技の競演を堪能してほしい。
■極上の体験と時間、人生でお酒の楽しみが倍増するグラス
藤巻百貨店での二つ目の別注である今作「八角籠目」は、第一弾「玉小紋」と同じ型のグラスがベースとなった姉妹的な関係となる。抑えた墨流のグレーのガラスに玉と花の紋様が清楚で柔らかな姉に、色とりどりな個性をもった魅惑的な妹たちといったところだろうか。姉妹の共通項は、篠崎硝子の特徴でもある覗き込む先に見える、万華鏡のような移ろう煌めきの光景だろう。どこから覗いても新たな顔を見つける、自分だけのグラス。金赤、ゴールド、瑠璃、墨流(ブラック)それぞれの個性を上品な被せガラスの色、カットで色を削ぎ液体の色を楽しめるようにした彫りとの対比を眺める。そんな自分だけの、もしくは大切な人との時間をくれる美しいグラス。心地よさ、艶っぽさは手にする人を美しく見せる不思議な魅力に溢れている。丸氷を入れての蒸留酒の他に、ハイボールやビールの泡ものも似合う、と英明氏。見ること、使うこと、所有すること、どれも楽しめる極上の逸品だ。