無地の生地が染めによって華麗に生まれ変わる。使い込むことによって手に馴染み肌に沿う。手ぬぐいの可能性、バリエーションを広げたのが東京和晒。なかなか思うように染まらないこともある晒だが、長年の経験で顧客の満足度を高める。手ぬぐいファンを増やすことにも努める業界最大手。
たかが白生地と侮れない晒」
品質が「染め」を左右する
晒(さらし)と書かれても読めないどころか、どんなものを晒と言うのかわからない人がほとんどのはず。手ぬぐい・浴衣の生地と言われればやっと目に浮かぶ。そんな木綿を中心とした各種繊維の晒、染色、仕上げ加工を明治22年以降手掛けて来たのが東京和晒株式会社。「ピーク時は全国の浴衣地の3分の1のシェアがありました」と語るのは現社長・瀧澤一郎氏。 たかが白生地と侮ってはいけない。染色工程の良し悪しを左右するのが、このまっさらな「晒」だ。かつては製品を納めた染工所からクレームが来ることも少なくなかったらしい。「トラブルはありましたよ。なかなか思うように染め上がらないのが晒ですから」。そんなある意味痛い経験を経て、同社は現在メインに手掛ける「手ぬぐい」にたどり着いた。
生地の両面を染める注染こそ
手仕事と言われるゆえん
生地の染めはたいていが片面プリント。それが世界標準となっている。一方、生地の両面を染められるようにしたのが注染という技法。型紙を生地に置き、その上から「防染糊」という染料の浸食を防ぐ糊を塗り、乾いた後に染料を塗っていく。この手法を取ると、生地を何枚も重ねて作業することができ、一度に20枚程度を両面染めに仕上げられる。つまり、少ない数でも安価に作ることが可能になるのだ。この柄が欲しいという人に届けることができる。それがこの手ぬぐいを「手仕事」と言える所以だろう。現に、町内会や地域のお祭り、商店から芸能人まで、オリジナルの手ぬぐいの受注は引きも切らない。さまざまな要望にきめ細やかに答えられるのは、東京和晒の長年の経験ゆえだ。
細部にこだわる細かな技法が
手ぬぐいの世界を広げる
東京和晒の細部にまでこだわる手ぬぐい作りを象徴しているのが、この桜柄の一枚。日本の花の代表とも言える桜を全面に配し、「和」テイストを表現している。特に、人々の目を引きつけるのは、花の大きさの大小。大きな花は、わざと布の端で切れるように染めてある。これは「覗き」という技法で、現実離れした大きな花が布の面積を超えて、果てしなく花弁を広げていそうな幻想さえ抱かせる。また、単一ではない花びらの色は「ぼかし」染めによる。桜の季節ではなくても思わず手に取り、さまざまな始まりの時である春を待ち望みたくなる。これも注染が可能にした効果。老若男女、誰の心の、どんな深い奥底にも届く魅力なのではないだろうか。
1枚で何通りもの使い道
手ぬぐいは究極のエコ!?
晒の生地には規格があり、手ぬぐいに使われる糸は、浴衣などより細くて目が詰まっている。つまり、何度も使い何度も洗っていくうちに、柔らかくなっていく。使い手の肌に馴染んでいき、自分だけのものになるのが良いところだ。手ぬぐいと言いながら、その用途は手をぬぐうだけにとどまらないところが、またいい。東京和晒が手ぬぐい普及のために作った冊子には1000枚以上持つコレクターの女性が紹介されているが、彼女はハンカチを持たずバッグにはいつも手ぬぐいを2、3枚入れておくと言う。物を包み、頭に巻けば汗止め、ちょっとしたストールにも早変わり。好みの柄物は額に入れてインテリアにも。1枚で何十通りにも楽しめる手ぬぐいこそ究極のエコなのかもしれない。
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1,100円(税込)
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