藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストはビームス代表取締役社長を務める設楽洋さん。日本のファッションシーンをけん引し、新たなライフスタイルを提案し続ける設楽さんが考える、大人とモノとの魅力的な関係とは??(前編)
後編はこちら
「欲しい!」を求め
東奔西走した青春時代
藤巻 すごくおしゃれな社長室ですね。僕らが若い頃に憧れた“カッコいい大人”そのもの。遊び心が詰まっている。
設楽 光栄です(笑)
藤巻 僕ら世代にとって、設楽さんはまさに憧れの先輩で、若造たちは必死にその背中を追いかけ、ファッションやライフスタイルを真似し、今に至るわけです。その設楽さんの憧れの対象はどのようなものだったんでしょうか。
設楽 まず、「アメリカのホームドラマ」ですね。白い家に大きな冷蔵庫、芝生の庭にバスケットゴール、大きな犬……etc。アメリカの生活文化が日本に押し寄せ始めた1950年~60年代に多感な時期を過ごし、それによって大きな影響を受けている世代だと思います。
藤巻 ファッションも世の中も最も激しく、変化した時代ですよね。
設楽 学生時代には米軍キャンプに出入りするようになり、かつてテレビドラマで見て憧れたライフスタイルを目の当たりにすることになります。米軍将校の子どもたちが履いていた真っ白なバスケットシューズやホワイトジーンズを心底「欲しい!」と思い、探したけれどどこにも売ってなかった。
藤巻 当時はインポートものというと、超高級品か米軍放出品くらいしかありませんでしたよね。
設楽 運良く見つけても、サイズが大きすぎて合わないとかね(笑)。当時は“ちょっとセンスのいい日用品”を探すのが至難の業。この時の渇望感がビームスの原点です。「すげぇカッコイイじゃん」「探してみようぜ」と仲間うちで盛り上がり、競って探したあのノリは、創業から30年以上経つ今も変わっていないのかもしれません。
モノも情報も溢れる今、尽きせぬ渇望感の正体とは
藤巻 モノも情報も乏しかった頃と今とでは、とりまく環境は大きく変わりました。でも、「欲しいものがない」という渇望感は未だに解消されていないような気がしますね。
設楽 モノと情報があふれているゆえの飢餓感がありますね。何か探そうと思ったら、 キーボードを叩けば、一瞬で“答え”らしきものが見つかる。でも、本当に欲しいものに出会えずにいる。
藤巻 「何を手に入れれば、満足できるのかがわからない」という悩みもよく耳にするようになりました。
設楽 昔は、簡単には見つけられない“カッコイイもの”を探してくるのが僕らの仕事だった。でも、今は、無数にある情報を絞り込み、これぞというモノを見せる役割 に変わってきているように思います。
藤巻 “目利き”が求められる場面はむしろ増えていますよね。
設楽 より良いものをより分けるというセグメント能力に加えて、今後は“経験”に導く能力も必要とされるでしょうね。今の若い子たちは「カッコいい!」と心を揺さぶられたり、上質なものを身につけたときの気持ち良さを体感しないままに、大人になってしまった人が少なくない。となると、「良いモノって、いいよね!」というアプローチでは共感が得られない。
藤巻 そこはまさに、僕自身も苦労しているところです。
設楽 この間ね、“ソフトバンク・孫正義社長がツイッターで3番目にフォローした高校生”として有名になった、うめけん君と対談したんですよ。
藤巻 面白い組み合わせですね(笑)
設楽 その対談のときにね、彼から「僕は“サブカル”にはあまり詳しくなくて、ファッションのことはよく知らないんです」と言われて、びっくりしちゃった。
藤巻 ええ!?
設楽 僕らはずっと、ファッションはメインカルチャーなんだと思ってやってきたけど、今の10代の子にとって、ファッションはサブカルチャーなのかと……。
藤巻 それは衝撃ですね。
設楽 しかも、Google検索で最初のページは見るけど、2ページ以降はもう見ないという。情報は一通り押さえておけばOK。それ以上深く掘り下げるのはマニアな人だけだと。
藤巻 いやいやいや(笑)。
設楽 こうした世代にどうやってアプローチすれば届くのか、僕たち大人が必死に考えなくてはいけない局面に来ているんだと思います。
ネタ消費から上質な体験に
つなげるという突破口
設楽 (ネクタイを取り出しながら)これね、僕がデザインしたんだよ。一見、トラッドなネクタイに見えるけれど、裏地に女性のヌードイラストが描かれている。
藤巻 何ですか、これ(笑)
設楽 すごく真面目な職場で、こんなネクタイを締めてたら、おかしいと思わない?
藤巻 しかも、BEAMSのロゴ付き! これは社長にしかできないデザインですね。
設楽 こっちの靴下はね、足の裏に「LOVE」って描かれている。今の若い子は、こういうものには反応する。
藤巻 “ネタ”として面白いかどうかは重要なポイントとして捉えられていますよね。
設楽 じつは“ネタ消費”から本物への導線を引くという手法が有効なのではないかというのが、僕の仮説です。こうしたキャッチなアイテムを通じて、上質な素材やデザインに触れる。すると、モノを選ぶ尺度が自然と変わってくる。
藤巻 「百聞は一見に如かず」ということわざではありませんけど、上質なものの価値や魅力は、どんなに言葉を尽くして説明しても、一瞬の経験にはかなわないところがありますもんね。
設楽 どんなに上質なものでも、何かしらの「棘」がないと、買う行為までには至らない。でも、自分も他人もワクワクさせるような“何か”があれば、人は間違いなく手に入れたくて仕方がなくなる。“ネタ消費”はその最たるものだと思うんですよね。
藤巻 TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが発達したことによって生まれた一過性のブームでは終わらない、と。
設楽 僕が考えるおしゃれは、相手の気持ちがわかること。周囲を楽しませたい、面白いと思われたいという気持ちと共通点があるような気がします。
■後編『ユニークな発想の源とは…?』
設楽洋氏のアイデアの源に藤巻幸大も大いに共感!
設楽洋
したらよう●1951年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、1975年 株式会社電通入社。プロモーションディレクター・イベントプロデューサーとして数々のヒットを飛ばす。1976年、同社勤務の傍ら、「ビームス」設立に参加。1983年 電通退社。自らをプロデューサーと位置付け、その独自のコンセプト作りによりファッションだけでなく、あらゆるジャンルのムーブメントを起こす仕掛人として活躍。セレクトショップ、コラボレーションの先鞭をつけたことで知られる。個性の強いビームス軍団の舵取り役。1997年 ニューヨークADC賞金賞受賞。2004年 デザイン・エクセレント・カンパニー賞受賞。2012年 JR東日本交通広告グランプリ、Yahoo! JAPAN I.C.A.ブロンズ賞受賞。