「宮脇賣扇庵」の京扇子

熟練の職人たちにより八十七もの工程により作りあげられる京扇子。江戸時代より続く老舗「宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)」が手がける製品は、いずれも扇ぐためだけの単なる道具にはとどまらない。用と美が一体となった、持ち歩くことができる工芸美術品だ。

長い歴史を誇る扇の文化と宮脇賣扇庵の京扇子

扇子の発祥は平安時代の京都
長い歴史を誇る扇の文化

今夏のような猛暑や節電対策、クールビズのアイテムとして近年注目を集めるようになった扇子。かさばらずに携帯でき、いつでもどこでも手軽に涼を取れる扇子は、夏の外出に重宝する持ち物のひとつとなってきている。現代では一般的に“扇ぐ”ためのものとして使用されることが多いが、その誕生は平安時代初期の日本。平安時代には、和歌を書いて贈ったり、花を載せて贈ったり貴族同士のコミュニケーションツールとして使用され、その後は日常や冠婚葬祭などの儀礼、茶道や舞踊、落語などの持ち物として欠かせないものとなっている。長い歴史の中で様々な役割、意味を持って活躍している扇子は、日本人に馴染み深い小道具だ。

伝統や格式を受け継ぐ老舗「宮脇賣扇庵」

江戸時代より伝統や格式を
受け継ぐ老舗「宮脇賣扇庵」

1823年(文政6年)より創業の「宮脇賣扇庵」は、日本舞踊に用いられる舞扇、夏扇に加え、昔ながらの飾扇など、あらゆる扇子をそろえる老舗の扇子店。江戸時代より、ほぼすべての製品を自社で製造販売しており、三代目が工芸品としての飾り扇を考案した後も、その伝統と技法を今日まで継承している。同社が手がける扇子の扇面に描かれた絵は、その多くが手描き。長年に渡って培われた職人の技術が生み出す製品は、いずれも手触りや開き具合、使い勝手などが高く評価されており、昭和34年には、当時の皇太子殿下御成婚の際に祝の扇を献納した実績も。また、時代とともに職人の確保が難しくなってきている中、同社は優れた職人の育成と技術継承にも力を入れ、扇子の伝統と文化の普及にも積極的に取り組んでいる。

仕上がりまでに八十七回 職人の手を通る宮脇賣扇庵の京扇子

熟練した匠たちによる
八十七もの工程

「京扇子」とは、主な素材となる竹と紙の加工から仕上げまで、京都を中心に国内で生産された商品のみを指す名称。扇子作りの流れは、竹を加工して扇子の骨を作る「扇骨作り」、扇子の紙の部分「地紙」を加工し、折り目を付ける「扇面作り」、扇骨と扇面を組み合わせる「仕上げ作業」に大別できる。しかし、実際の製造工程は「仕上がりまでに八十七回 職人の手を通る」と言われるほど、細かく分けられ、紙屋、絵付け師、扇骨屋、折師、付け師など、20余りの職人の分業で行われる。さらに、主な素材である竹や和紙は、それぞれが呼吸している上に個性もあるため、全体のバランスを取るのが非常に難しく、それぞれの職人には熟練した技術が求められるという。

持つだけで優雅な気分に浸ることができる宮脇賣扇庵の京扇子

職人達の思い入れ、雅な風情が
感じられる柔らかい風

京扇子の魅力について、「宮脇賣扇庵」本店店長の高嶋章治氏は「やはり職人さんが、一本一本思いを込めて作っているということに尽きる。使い心地が工場製品のものとは比べ物になりません」と語る。そして、職人が手間暇をかけて作っているものだからこそ「扇を大事にしつつ、小物として活かしてもらいたい(同氏)」とも。同店では、もちろん扇子の修理にも対応しているが、扇骨が破損したり、折れてしまうと返って高くつき、修理は難しいとのこと。使う際は乱暴に開け閉めせず、両手で全開にして扇ぐことが好ましいそうだ。持つだけで優雅な気分に浸ることができる同店の扇子は、使うたびに“古いものを大切にする”という京都の文化をも感じられる夏の逸品。長い歴史に育まれた、気品あふれる柔らかく優しい風で、暑い季節を心地良く過ごしていただきたい。

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