「ビジネスバッグは黒か茶色でないと…」そんな“あたり前”を覆した、鞄の聖地・豊岡の老舗。どこまでも白く、どこまでも汚れにくく――。“業界のタブー”を打ち破った「白いレザーバッグ」はいかにして生まれたのか。ファクトリーブランド「CREEZAN(クリーザン)」の代表取締役社長・西田正樹氏に話を伺った。
鞄の聖地、豊岡から世界へ
新たな価値観を発信するCREEZAN
日本の鞄生産の中心地、兵庫県豊岡市。鞄づくりの歴史は1000年を超え、古事記にもその記述が残っている。最盛期には日本の鞄の約8割を担っていたが、そのほとんどがOEM生産。いわゆる縁の下の力持ちであり、豊岡は長年“知る人ぞ知る”存在であった。そんな地で1975年に創業し、地場産業を牽引してきたのがコニー株式会社だ。誰もが知る有名ブランドのOEMを手がけながら、「なぜビジネスバッグは黒と茶ばかりなのか」という思いを募らせていたという西田社長。「自分たちのものづくりで、さまざまな“あたり前”を覆したい」という想いを引っ提げ、ファクトリーブランドCREEZANを起ち上げたのは2015年のこと。ブランド名は、地元の名峰「来日山」から取った。「世界に通用するブランドを目指しながらも、自分たちのオリジンは常に忘れずにいたい。そんな想いから、豊岡にちなんだ名前を付けました」と語る。
純度の高い“オンリーワン”を
出発点は白い革のキャリーバッグ
CREEZANの出発点とも言えるのが、“白い革のキャリーバッグ”である。「ブランドを起ち上げたら、まず革のキャリーを作るのが夢だったんですよ」と西田社長。レザーのキャリーバッグを作るには、レザーバッグの知識に加え、キャリーやトランクのような“箱もの”を扱う専門的なノウハウも必要とされる。世界的なハイブランドは別として、巷で革製のキャリーバッグをなかなか見かけないのはそのためだ。しかしそこは旅行鞄の祖とも言うべき柳行李から発展を遂げた豊岡だ。「弊社には豊岡で長年キャリーバッグを扱ってきた熟練の職人がおりました。自分たちの技術力なら、革のキャリーを実現できると思いました」。同社がさらにこだわったのがバッグの色である。「どうせなら、誰も見たことのないオンリーワンのバッグを作ろうと。そこで黒でも茶でもない、“白”で勝負しようと考えたんです」。
業界のタブーを破る“白の衝撃”
OEMで培った圧倒的な技術力
白は製造過程で汚れやすく、細部の傷も目立ちやすい。少しでも汚れれば不良品となってしまうため、非常に扱うのが難しい“工場泣かせ”の色なのだ。業界のタブーとも言える「白への挑戦」に、社内からは懸念する声も上がったが、そこで生かされたのが長年のOEMで磨かれたワザだった。「弊社には、数々の大手ブランドの厳しい検品基準をクリアしてきた実績とノウハウがあります。普通なら二の足を踏むところかもしれませんが、我々ならできる!という確信がありました」。工場内は毎日すみずみまで清掃され、スタッフは全員手袋と白衣を着用。手の汚れ、接着剤やミシン油など、想定されるすべての汚れに気を配り、繊細かつ丁寧にバッグを作り上げてゆく。パーツや製品は極力重ねず、管理方法も徹底。想像を超えた“超厳戒態勢”の中で生み出されるバッグには、鞄の聖地・豊岡の作り手の矜持をひしひしと感じる。
ようやく辿り着いた“Deep White”
汚れにくく水に強い、鉄壁の白!
ひとくちに白といっても色々あるが、同社が目指したのはオフホワイトでもアイボリーでもない、“白のさらに先”にあるような究極の白だった。しかし、原皮をただ白に染めただけではどうしても地肌の色が出てしまう。“理想の白”を追求する中で出会ったのがイタリアのタンナーだ。「原皮にブリーチをかけ地肌の色を抜き、その上から白の染料と顔料を入れることで、一段上のクリアな白を表現しました。ブリーチの技術力にかけては、イタリアは世界トップクラス。もともとクリアな発色の洋服やバッグを好む国ですから、白に対する探究心も日本の比ではありません」。肉厚でボリューミーなシュリンクレザーは、ふっくら贅沢な肌触り。さらに強撥水加工を施してあるため、水や汚れもパッと弾いてくれる。「白は汚れやすい」「雨の日に白はNG」といった私たちの“あたり前”を、CREEZANは軽やかに覆してくれた。
人生を楽しむジェットセッター達へ
“わかってる”大人は、白を選ぶ
今回登場する「JETTER(ジェッター)」シリーズは、CREEZANのフラッグシップライン。世界中をバッグひとつで優雅に飛び回る“ジェットセッター”をイメージして作られたバッグたちは、大人の余裕を感じさせるシンプルなデザインが魅力だ。「最上級の素材を惜しげもなく使う」のもこだわりで、YKKの最高級ファスナーやオリジナル金具など、ディテールにもセンスが光る。ビジネスや旅のシーンで“白”を選ぶのはなかなか勇気がいるものだが、きっぱりとした白のバッグは、持つだけである種のアイデンティティを漂わせ、無難なスタイリングもぐんと格上げしてくれる。さらには、持つ人の気分や心持ちさえも変えてしまうのが白という色の魔力だ。「何色のバッグを持つか」は「どんな人生を歩みたいか」という問いにも少し似ている。王道の黒や茶色を選ぶか、あえて白で攻めていくか…。どっちの“人生”を選ぶかは、あなた次第だ。
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