「自分たちの“発想”で自分たちの“ものづくり”を発信する」をモットーに掲げる紡績ニット会社の佐藤繊維。時流に流されず、原料と素材にこだわりながら、オンリーワンのものづくりに愚直に向き合うその姿勢に迫る。
世界の常識を変えた
メイド・イン・ヤマガタの糸
アンゴラヤギの毛わずか1グラムを、44メートルにまで伸ばした“世界最細”のモヘアをご存知だろうか。2009年、米国大統領就任式にてファーストレディが同社の糸を使用したカーディガンを着用したことで一躍世の脚光を浴びたこの極細糸は、実は日本の山形で作られたもの。山形県寒河江市に本社を構える「佐藤繊維」は、1932年、初代社長・佐藤長之助氏が周辺農家と共に自ら羊を育て、その羊毛を原料とした毛紡績業を興したことに端を発する。以来、創業者の志を受け継ぎ、原料選びはもちろんのこと、糸づくりから仕上げに至るまで一貫して自社工場で行うその姿勢を貫いてきた。2001年には自社アパレルブランド「M.&KYOKO」コレクションをN.Yで発表。2007年、世界最高峰の糸展示会へ初出展を果たし、以降常連に。名だたる海外ブランドのニットにも数多く採用される佐藤繊維の糸は、今世界で最も注目を集める糸と言っても過言ではない。
人と人との出会いが生み出す
まだ見ぬ繊維の可能性
「ものづくりの手間を惜しまないトップクリエイター(=農家の方々)とタッグを組み、世界でまだ誰も見たことのない糸を紡ぎ出したい」と語るのは、4代目・佐藤正樹氏。良質な素材を求め、南アフリカ、ペルー、オーストラリアなど、自ら世界中を飛び回る。現地では糸の原料となる羊やヤギと直接触れ合い、農家の人々と衣食住を共にする。佐藤氏曰く「大量ロットでの出荷が難しい希少な素材を世に送り出すには、生産者との信頼関係が何より大切なんです」。南アフリカで最高品質のモヘアに巡り合った際には、農家を熱心に説得し、生産量ごくわずかの“スーパーベビーキッドモヘア”のみを集めたトップメイキング(ワタづくり)を一年かけて実現させたことも。遠く異国の地から海を渡り、まさに“一本の糸”で繋がれ国を超えた人々の情熱は、山形の工場で最高品質の繊維へと形を変える。
最上級のウールは熟練工の知恵と
徹底した環境づくりから生まれる
モヘアだけでなく、ウールにおいても世界一の細さを誇る佐藤繊維。太さ19.5~20.5ミクロンが平均値とされるなか、佐藤繊維の紡ぐウールはカシミアよりも細いわずか14.8ミクロン。その極めて繊細な糸作りを可能にしたのは、昔ながらの機械と熟練工の技だった。「大量生産こそ叶いませんが、速すぎない絶妙な回転速度や捻りの加減など、最先端の機械ではなし得ない動きと、それを巧みに操る熟練工の研ぎ澄まされた勘と経験によって、ウールのポテンシャルを最大限引き出すことに成功しました」(同氏)。また、羊やヤギを取り巻く環境も重要なポイントだとか。「ストレスの少ない環境に身を置くと、より細くしなやかな毛が育つと言われているんです」と佐藤氏。豊かな自然や滋味に富んだ牧草など、現地の農家が世代を超えて追求し継承してきた“最善の環境”が今、唯一無二のものづくりを支えているのだ。
素材そのもののよさを感じる
極上のふんわりストール
そんな世界に誇る極上糸を使用した佐藤繊維のストールが、新作を携えて今年も藤巻百貨店に登場する。極細のモヘアとカシミヤを組み合わせた一枚は、ふんわり軽やかで、しっとり優しい肌触り(左図上)。希少価値の高い“エキストラキッドモヘア”を使用したストール(左図下)は、吸着性の高いモヘアを袋編みで編み上げ、二重構造にすることであらわした、繊細な色の重なりを楽しんでほしい。ニットを知り尽くした同社だからこそ成し得る、上質で個性あふれる糸を使用した唯一無二のアイテムたち。その嫋やかな表情は、秋冬の首元に上品な彩りを添えてくれるはず。他では決して味わうことのできない佐藤繊維の世界に、存分に酔いしれてほしい。