2024年2月16日(金)、第36回
江戸切子新作展の審査会が開かれました。取材班が現地に着いたとき、審査員であり江戸切子協同組合の理事長もある篠崎硝子工芸所・篠崎秀明氏が、バックヤードで我々だけにこっそりと発した第一声は
「今年の新作はスゴいの揃ってるよ」
…なんと!これは期待大です!
そもそも江戸切子新作展とは。
伝統工芸士から若手作家まで江戸切子職人が魂を込めて切り出した渾身の大物作品が集う、年に一度のコンテスト。2024年3月29~31日に東急プラザ銀座(東京都中央区銀座5-2-1)で開催される、日本最大の江戸切子の祭典「江戸切子桜祭り」のメインコンテンツでもあります。
※写真は2023年の江戸切子桜祭りの様子
秀でた作品には「経済産業省製造産業局長賞」などの名誉ある賞が与えられる由緒正しきコンテストですが、実は若手職人たちにとってはもう一つ別の側面も。
江戸切子職人にとって一つの到達地点ともいえる“日本の伝統工芸士”。その称号を手にするためには、12年以上の実務経験だけでなく、実技審査を含む厳しい試験に合格しなければなりません。2024年2月現在、江戸切子の伝統工芸士は22名。どれほど狭き門かがうかがえますね…!
新作展は、職人同士の競い合いを通じて表現と技術の研鑽を積む場。そう、このコンテストは伝統工芸士への登竜門としての役割も担っているのです。
※写真は2023年の江戸切子桜祭りの様子
ふたたび審査会場へ。
「講評会を始めます。移動してください」
という理事の声に、談笑が聞こえていた出品者控え室の空気が一気にピンと張りつめます。今年の出品者は全22名、入賞するのは上位7作品のみ。彼らが審査会場へ向かうその足取りから、そこはかとない緊張感がヒシヒシと伝わってきます。
審査員は6名。主催の江戸切子協同組合篠崎理事長を含むベテラン伝統工芸士3名に加え、ガラス工芸に広い知見を持つ外部有識者3名が務めています。
講評は、篠崎理事長から。
「今年は審査員がみな、非常に頭を悩ますほどの接戦でした。(上位7作品を決めるための)一次審査では、同点で12作品が入りました。その中から決選投票で上位7作品に絞ったのですが、デザイン的に『おっ!』と目が引くものにやはり点数が集まったと思います。が、どれをとっても『えっ』という(基準に満たないような)ものは見当たらず、全体として本当に良い出来だったと思います。」
次に、組合の副理事長を務める根本硝子工芸・根本達也氏(写真右)。
「そうね…これからしばらくの間『江戸切子』大丈夫でしょうね。おつかれさまでした。」
同じく副理事長を務める鍋谷グラス工芸社・鍋谷淳一氏(写真左)。
「ガラス生地の価格が近年上がってきて、(大物新作のカットを施すためのガラス生地の入手やその制作が)なかなか難しくなっていくのかなと。でもそんな中でも、もう本当にすばらしい作品が揃ったので、うん。自分はもう大満足ですね。」
篠崎氏
「色々リサーチをすると、(大物新作は)早く制作にかかった方がクオリティが高くなるような気がします。そういう意味では、もう来年のレースが始まっています。
また、新作展で「入選した/しない」っていうことも大事なんですけども、この競い合いで(技術や表現の)レベルが上がるってことが非常に良いことだと思いますし、江戸切子全体の底上げになって、これを各自の商品に生かしていただければ、ますます江戸切子全体が活気づくんじゃないかと思いますので、これからも引き続き切磋琢磨して励んでください。」
全体に向けての講評が終わると、会場内には
「これはよく磨いたね~」
「この菊籠目じゃ江戸切子職人は名乗れないよ!」
といった、大ベテランから若手への叱咤激励の言葉が飛び交います。惜しくも入賞を逃した作家の中には、背中に悔しさを滲ませつつ、受賞作を食い入るように見つめる者も。江戸切子新作展、まさにドラマありです。
さぁ気になる、審査の結果はいかに?!
一般発表は3月28日(予定)です。乞うご期待!
主催]江戸切子協同組合 [特別協力]藤巻百貨店