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安宅漆工店でひも解く「江戸漆工」

英語で「JAPAN」が漆や漆器も意味するように、世界に誇る日本の伝統工芸の代表格とされる漆塗り。「江戸漆工」の稀代の塗りの技を、“日々の暮らしに取り入れてほしい”と生まれたマグカップは、使い込むほどに艶を湛え、私たちの生活に、本物を持つ喜びを与えてくれる。

父の仕事へ想いを馳せながら漆を塗る、漆工職人の醍醐味

父の仕事へ想いを馳せながら
漆を塗る、漆工職人の醍醐味

塗師である安宅漆工店の安宅信太郎氏は、15歳で父、儀一氏に師事。信州の善光寺や国立能楽堂、参議院議長公邸など、数多くの建造物の、建築漆工を手がけてきた。現在は東京都指定有形文化財でもある、目黒雅叙園の「百段階段」の修復作業にも携わっているそう。昭和初期、日本の伝統工芸の粋を集めて造られた絢爛豪華な「百段階段」の漆工には、儀一氏も関わったという。「父も建造に参加したものを修復する喜びは、漆職人ならでは。こんな技があったのかと日々発見がある、生涯携わっていきたいと思える最高の仕事です」(安宅氏)と熱い思いを語る。

江戸に集められた漆の匠たちが技を競い発展してきた江戸漆器

江戸に集められた漆の匠たちが
技を競い発展してきた江戸漆器

日本最古の漆塗りの櫛が遺跡から出土しており、漆は、縄文時代にはすでに使われていたそう。また飛鳥時代に建てられた、法隆寺の「玉虫厨子」にはすでに漆絵が描かれおり、奈良時代の仏像彫刻の傑作、興福寺の「阿修羅像」は脱活乾漆造の技法で建造されている。長い歴史を持つ漆だが、漆器として庶民の生活にも息づいてきたのは江戸時代から。徳川政権により長く平和が続いたこの時代、日本各地でさまざまな伝統文化が発達したが、江戸における漆器もその一つ。それまで、貴族や武士、豪農商など特権階級のものであった漆器が、一般庶民の間でも親しまれるようになったのだ。安宅漆工店が運営する区認定のちいさな博物館「漆工博物館」にはこのような時代の背景を学べる展示品がある。

美しい色艶と堅牢さを兼ね備えた漆のよさを、ただ引き出したい

美しい色艶と堅牢さを兼ね備えた
漆のよさを、ただ引き出したい

塗りの後には必ず乾燥と研ぎが入る。漆の調合や刷毛遣いなどに加え、湿度の調整も、漆職人にとっては経験と勘を要する大切な仕事だ。漆を塗って乾かす「塗立(ぬりたて)」、さらに研ぎを加え、漆で磨き上げていく「蝋色(ろいろ)仕上げ」、卵白を混ぜた漆を何層も重ねて複雑な文様を描き出す「叩き漆」など、塗りや仕上げの技法も多種多様。「漆は生きているから、私たちの想像を超える変化を遂げる。時を経て、思いがけない麗しい姿になっていることがある。この歳になって、漆と格闘するなんておこがましいことだと解ってきたんです。漆自体が類いまれな存在。ただ、そのよさを前に押し出してあげれば、漆自らが表現してくれるんです」と安宅氏。

漆工職人の遊び心から生まれた懐かしくて新しいマグカップ

漆工職人の遊び心から生まれた
懐かしくて新しいマグカップ

漆器は、特別なもののように思われがちで、年に一度、お正月にお目見えするだけという家も多いのでは。歴史的建造物を手がける建築漆工職人・安宅氏による「本漆塗りマグカップ」は、漆器を身近に置いて、色合いの変化、見た目を裏切る軽やかな使い心地、なにより本物のよさを、目一杯、楽しんでもらいたいという想いから生まれた。漆の柔らかさは触れた唇からも感じられるという。漆の可能性はまだまだ奥深い。「人びとの暮らしの中に根付き、愛されるものを、と考えものを作り出すのが、面白くて」と、安宅氏は目を輝かせる。表情豊かでたおやかな漆製品は、外国人にも人気が高い。私たち日本人が、日々の暮らしの中で漆器を楽しまないなんて、もったいないではないか。

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