【Flathority】シュリンクレザートートバッグ

■革と糸だけで「限りなくヘタリにくい」バッグを
日本においてレザーバッグ産業が当たり前になったのは、戦後まもなくのこと。その礎を築く一端を担い、日本製のバッグがハイクオリティであることを静かに証明し続けてきたのが、「Flathority」を運営する株式会社猪瀬である。「日本一バッグ作りがうまい」と称されることもあるほど、技術に長けた存在だ。このたびご紹介したいのは、そんな彼らのフラッグシップ的な一本であり、日本製レザーバッグの真髄を味わえるような、そんな魅力の詰まった逸品。軽やかな持ち心地で、ほぼ革と糸のみでできているのに、ハンドルまでしっかりと自立し、驚くほどくたびれない。しっとりと手や肌に吸い付いてくる手触り。内装も同様に滑らかで柔らかいのになぜこんなにも美しい出で立ちが可能なのか。そこにこそ、株式会社猪瀬が日本製革バッグの隆盛を支えてきた技の秘密がある。英華発外という言葉がぴったりのバッグをとことんご紹介していく。

■数多の名ブランドも信頼。日本製革バッグの隆盛を支えてきた老舗
「Flathority」は、メンズの革製品のOEMを主体とする株式会社猪瀬のファクトリーブランドだ。1952年に創業した同社は、戦後の日本で革鞄の産業が活気づきはじめる中を駆け抜け、数多のブランドの製品を作り上げてきた。高品質にこだわり続け、数々の鞄コンテストでも受賞歴を誇る。日本製の革鞄の隆盛を支えてきた存在だ。「Flathority」はそうした長年のOEMで養われた知識、職人の技術のすべてを活かしている。「量産では簡単にできない技法を取り入れながらも、手に取りやすい価格を意識する。手仕事ならではの仕上がりを、きちんと道具として活躍させながら使っていけるモノづくりにこだわっています」と話すのは、取締役会長の猪瀬昇一氏。その言葉通り、「Flathority」のラインナップには、半世紀以上にわたって国内のあらゆるブランドの革製品を作り続けてきた彼らにしかなし得ないアイテムがずらりと並ぶ。

■ミシンでは不可能レベルで深々と接合。だからヘタらない
最も驚きなのは“ヘタリにくさ”。トートバッグはハンドル、特に本体との接続部分に最も負荷がかかる。本体に硬い芯材を入れるのも手だが、それでは素材の良さが損なわれてしまう。こうした課題を、素材の強みを活かしきる形で乗り越えていることが驚異なのだ。まず内装のピッグスエードは極厚なものだけを厳選してボンディング加工し、芯材を使わずに強度を持たせる。バッグの底は、実は本体の革と内装の革をサンドする三層構造で、これが底板の役割を担う。真打となるのがハンドルだ。内側に牛肩の床革と、警察官の腰縄などにも採用されている高強度の金剛打ち紐を入れて堅牢なものに。なんとこれを一つ一つ手縫いで、ミシンでは不可能なレベルで本体と深く接合させて、最強レベルの強度へと押し上げている。接合部の間には革に最も適した芯材をわずかに入れ、荷物を入れた際に「本体がハンドルに引っ張られるシワ」を出にくくさせた点も実に芸が細かい。

■ほぼ100％修理可能。美しさ増すばかりの自慢の一本を持とう
素材はイタリア最大規模のタンナー・マストロット社のシュリンクレザー「Coimbra」を表に使い、内装には国産のピッグスエードを採用。「Coimbra」は劇的な色の変化はない分、艶は日毎に増し、本来持っているしなやかな手触りは加速していく“経年美化”レザーだ。パーツの接合は白糸で行い、表にはアクセントとして響き、裏には馴染むという粋なスタイルをとった。トートバッグには珍しく、熱ゴテで固着させる一手間をかけたコバを見える潔い仕様だが、これには狙いがある。「ハンドルや外ポケット、本体をコバの見える形で接続しているのはすべて、万が一壊れても修理できるため。たくさんの機能ではなく革の利点を活かしきり、くたらずに愛用し続けられるバッグを目指したのです」（猪瀬昇一氏）。優れた素材と職人の技の結晶と呼べるこのバッグは、自慢できる一本として持つ人をも輝かせてくれるだろう。