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Discover Japan編集長 高橋俊宏(後編)

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「TalkGuest?ゲストインタビュー」。今回のゲストは「Discover Japan」編集長の高橋俊宏さん。知る人ぞ知る日本を発掘し、その魅力を発信し続ける男のモノ選びに迫ります。(後編)
前編はこちら

ミーハーな視点から
興味のフックを仕掛ける

藤巻 雑誌「Discover Japan」は毎回、じつに面白いテーマを取り上げているけれど、あれはどうやって決めているの?
高橋 編集部で案を出し合い、年初に一年分のテーマを決めるんですよ。でも、半年後に後半のテーマについて検証します。
藤巻 もっと他にいいテーマがあれば差し替える?
高橋 そうですね。「Discover Japan」が取り上げるテーマは普遍的なものが多いんですが、だからこそ、今の人たちが何に興味があるのかという時代の“気分”をしっかりキャッチし発信する必要があるんです。
藤巻 波が来ているときに、その波を大きくするイメージがあるね。

高橋 まさに僕らが狙っているのはそこです。例えば、昨年5月に刊行された号では、五重塔を取り上げました。五重塔の建築構造は素晴らしくて、倒壊率ゼロ。スカイツリーの参考にもされているほど。
藤巻 面白いね。
高橋 面白いし、すごく紹介したかったけれど、周囲に関心がないときにやっても伝わらない。だから、スカイツリーができるタイミングにあわせて特集を組んだんです。
藤巻 その時期なら、スカイツリーに興味のある人が手に取るかもしれない。
高橋 僕らの仕事は“入り口”を作ることだと思っています。興味を抱くきっかけを提供する。ミーハーな視点から、面白そうなところだけをスパッと切り取って、どうぞと渡す(笑)。
藤巻 五重塔のように「名前は知っているけれど、じつはよく知らない」というものもあるけれど、まだ知られていない場所やものを取り上げることも多いですよね。
高橋 そうですね。
藤巻 こうした“知る人ぞ知る”を紹介するにあたっては、どんなところに気を付けていますか。

高橋 たとえば、「新しいニッポン観光」という号で取り上げた、富山県南砺市特集では、まず南砺市の全景を紹介しています。日本の原風景でもあり、ヨーロッパの田園風景にも見える。そして、ページをめくると、世界遺産である“五箇山”の紹介。さらに次のページでは“棟方志功”の疎開地であったことや、民藝運動の中心人物であった“柳宗悦”ゆかりの地だったことを紹介しています。
藤巻 知っているキーワードが出てくることでグッと身近に感じるし、興味がわいてきますね。
高橋 “凄さ”を認識できるフックを随所に仕掛けているんです。
藤巻 この手法と視点は、ものづくりの現場や町おこしにも必要不可欠ですね。

父に叩き込まれた日本の伝統と美しさ

藤巻 そもそも、高橋さんが日本の文化に興味を抱くようになったのは何がきっかけだったんですか。
高橋 父親の影響ですね。僕の地元の岡山県は備前焼のほか、刀(備前長船)でも有名なんですが、近所には日本で一番能衣装が揃っている「林原美術館」もあって……。こうした美術館や神社仏閣に休日のたびに連れて行かれたんです。
藤巻 素晴らしい英才教育だね。
高橋 当時はその良さなんてちっともわかりませんでしたが、知らず知らずのうちに「日本には素晴らしいものがある」と叩き込まれていたんだと思います。
藤巻 お父様は美術関係の仕事をされていたの?
高橋 公務員です(笑)
藤巻 そうですか。
高橋 親父はずっと空手を教えていて、そちらでもスパルタ教育を受けています。初めて海外に行ったのは中学で、オーストラリアなんですが、旅行ではなく、空手の世界大会でした。
藤巻 え、出場したの?
高橋 そうです(笑)。今は仕事が忙しくなってやってませんが、空手は10年くらい前まで続けていました。社会人になってからも実業団の試合に出場したり、結構本気でやってたんです(笑)。
藤巻 もしかして、有段者ですか?
高橋 四段です。
藤巻 ええ!?
高橋 東日本実業団大会で3位になったこともあります(笑)。
藤巻 上段回し蹴りができちゃったりするんじゃないですか!
高橋 誰でもできますよ。
藤巻 俺にはできないよ! 凄いな。

肌身離さず、
“初心”を持ち歩く

藤巻 高橋さんがいつも持ち歩いているモノを教えてください。
高橋 まず、ノートとペンですよね。
藤巻 このノート、書きやすそうだね。
高橋 うちで作っているノートなんですよ。
藤巻 え、雑誌だけじゃなくて、文房具も作っているの?
高橋 「趣味の文具箱」という文房具専門誌があって、その編集長が考案したノートなんです。紙質に徹底的にこだわっていて、万年筆との相性も抜群です。
藤巻 手触りが全然違う。これはいいね!書きたくなる。高橋さんもやっぱり、万年筆派?

高橋 万年筆は好きですね。普段持ち歩いている2本のうち、1本は大学時代に先輩からもらったものです。かれこれ20年ぐらい前になるでしょうか。卒業旅行がてら、イギリスに留学していた先輩のところに遊びに行ったんです。ある日、先輩に「買い物につきあってくれ」と言われ、セレクトショップに一緒に行き、万年筆を買ったんです。店を出たところで「ほら、就職祝い」と渡されたのがこの万年筆なんです。
藤巻 粋だね。格好いい!

高橋 もう一本は転職するときにもらったものです。以前務めていた出版社では営業部にいたんですが、どうしても編集がやりたくて転職しました。当時、印刷所の担当でずっと一緒に仕事をしていた人から「編集になったら、いろいろ書く機会も増えると思うから……」とシャープペンシルをプレゼントされた。
藤巻 嬉しいね。「頑張れよ!」とエールを送られたわけだ。
高橋 このシャープペンシルを見るたびに、本を作りたくてたまらなかったときの気持ちを思い出します。
藤巻 初心に返れるモノを持つって大事だよね。気持ちが引き締まる。
高橋 もっともっと、いい雑誌を作りたいですし、同時に雑誌の枠にとどまらず、日本の魅力を発信していきたいと思いますね。


<対談を終えて……藤巻幸大から高橋俊宏さんへ>

日本にはいいものがたくさんあるし、いいものを欲しがっている人もたくさんいる。でも、その間をつなげる人があまりにも少ない。高橋さんは、こうした問題意識を共有できる貴重な友人であり、盟友。僕も微力ながら「Discover Japan」の立ち上げからお手伝いし、一緒に作ってきたという自負もあるし、日本中数え切れないぐらいの場所に一緒に行きました。お互い"現場"が大好きなところも、似たもの同士。今回、改めて高橋さんの日本に対する関心の深さやそのルーツを聞いて、なるほどと思うのと同時に大いに刺激を受けました。これからも一緒に"知られざる日本"を発見・発信していきましょう!


■前編『日本の魅力を発掘し続ける男のモノ選び』
日本中を飛び回る編集長がセレクトした日本全国の個性溢れるアイテムをご紹介。

~高橋俊宏さんのゲストインタビュー~

【森大雅】備前焼「蝶ネクタイ」
“陶器でできた蝶ネクタイ”。そう聞くだけでどんなものか見たくなるはず。 陶芸家・森 大雅が発信する“身につける備前焼”。

高橋俊宏
たかはしとしひろ●1973年岡山県生まれ。1999年エイ出版社入社。建築やインテリア、デザイン系のムックや書籍など幅広いジャンルの出版を手掛ける。2009年に日本の魅力、再発見をテーマにした雑誌「Discover Japan」を創刊、編集長を務める。雑誌を通して地方活性の活動にも積極的に関わる。現在、やまなし観光大使、山梨県富士山世界遺産センター整備検討委員、いいね! JAPANソーシャルアワード委員会メンバー。

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