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シェフ 松嶋啓介(後編)

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「TalkGuest?ゲストインタビュー」。今回のゲストは南仏・ニースや東京・原宿にあるレストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」のオーナーシェフの松嶋啓介さん。国内外から注目を集めるフレンチ界の新旗手を魅了するモノとはーー。(後編)
前編はこちら

原宿から世界へ!
「日本」を発信したいという想い

藤巻 松嶋さんがこれまでに手に入れたもののなかで、「これは魂を込めて買ったな!」と思うものを教えてください。
松嶋 そうですね……やっぱり、このレストランですね。
藤巻 なるほど!
松嶋 18歳のときに初めて東京に出てきて、最初に行ったのが渋谷だったんです。そのときから、明治通りに店を出そうと勝手に思っていました(笑)
藤巻 その夢がかなったんだ!

松嶋 渋谷のレストランで働いて、その後、フランスに行き、ミシュランで星を取れば、店を出そうという話がたくさん来るだろうとは思っていたんです。実際、1日5件ペースで打診があった。その中の一つがここだった。場所を聞いて、即決しました。
藤巻 シンプルでいいねえ。
松嶋 東郷神社のすぐそばというロケーションもいいなと思ったんですよ。都心なのに静かで環境にも恵まれている。しかも、原宿という街はすごく面白い。日本人は“コドモの街”と捉え、やや軽んじているきらいがあるけれど、海外からはすごく注目を集めている。あのレディ・ガガが好きな街としてあげているほど
藤巻 それだけのポテンシャルがあるのに活かしきれていないのが、もったいない。
松嶋 僕は原宿から“日本”を発信していきたい。だから、レストラン・アイをオープンするにあたって、真っ先にBEAMSの設楽社長に会いに行ったんです。
藤巻 おお!
松嶋 「この街から日本の衣食住を発信していきましょう!」と話をしたら、「いいね、やろう!」とすぐ賛同してくださった。レストラン・アイの制服はすべてBEAMSのものです。単におしゃれだからということだけではなく、ファッションショーのステージに立っているかのようなプライドと緊張感を持って働いて欲しいという願いが込められています。
藤巻 素晴らしいですね。熱く訴えた松嶋さんも、それに応えた設楽社長もどちらも凄まじく格好いい。

日仏を往復する多忙な日々を
支える、あのアイテム

藤巻 今日持ってくれた、松嶋さんのお気にいりアイテムは?
松嶋 「エアーウィ?ブ」の枕です。ここの枕やマットレスパッドを使うようになってから、日仏の往復がラクになったんです。
藤巻 移動中に使っているの?
松嶋 日本とフランス、両方の自宅の寝室で使っています。短時間しか眠れなくても、疲れがとれるんですよ。
藤巻 (枕を抱きながら)これは、いいね。すごく気持ちいい。

松嶋 「エアーウィ?ブ」を開発した高岡本州(もとくに)社長は、もともと、日本高圧電気というまったく別ジャンルの社長だったんです。ある時、業績が低迷していた叔父の会社を引きとり、そこで作っていた“釣り糸状プラスチック”の技術を活かして、マットレスパッドや枕を作り始める。そして、見事に急成長させたんです。2年前の売上が6億で、昨年の売上が40億ですよ。
藤巻 すごいね!
松嶋 アイディアも面白いし、不採算企業を再生させたその手腕も凄いなと思って。
藤巻 あれ……高岡社長って会ったことある。名古屋の会社だよね。
松嶋 そうです。
藤巻 イトーヨーカドーにいるときに、お会いしたことがあるよ。たしか、すごく商品はいいけれど、客層がマッチしないと思って、伊勢丹のバイヤーを紹介したような気がする(笑)
松嶋 こんなところでも、奇遇ですね。
藤巻 不思議だけど、面白い人同士は何かつながるんだよね。

視点と支点を変えると、
“志点”が見えてくる

藤巻 松嶋さんは日本とフランスを行き来するようになってから、だいぶ経つわけですよね。
松嶋 かれこれ10年になります。
藤巻 どうして今のライフスタイルを選んだんですか。
松嶋 東京とニースを行ったり来たりすることで、自分自身に対してとても冷静になれるんです。ちょっと離れたところから見ることで客観的になれる。
藤巻 松嶋さんは本当の意味でのグローバルな生活を送っているよね。

松嶋 自分自身でも羨ましい。事情が許すなら、もっと多くの人に同じような生活を送ることをおすすめしたいです。日本国内で東京と地方を行き来するだけではまだまだ狭い。海外に拠点があると、ものの見方が変わります。
藤巻 視野の広がりが全然違いますよね。
松嶋 「視点と支点を変えてみよう」という話をよくするんですけれど、これら2つを変えると、自分の志の置き場所が見えてくる。つまり、“志点”が明確になるんです。
藤巻 “志点”って良い言葉だね。
松嶋 今後はフランスと日本に加えて、もう一つ中継地点を増やしたいと思っています。最初のレストランを作ってから10年経つので、また違う国に店を出そうかと。
藤巻 次に店を持つとしたら、アジア?
松嶋 いえ、英国ですね。
藤巻 英国! それはまたどうして?
松嶋 イギリスの歴史は“占領”の歴史でもあるんですが、日本とやり方が全然違うんです。例えば、日本の場合は海外に対して寄付をするときも、集めた募金を渡して終わり。でも、イギリスは寄付するとともに、自分たちのカルチャーを持ちこみます。現在、インドが活躍しているのもイギリスのおかげですし、中国発展のきっかけを作った香港ももともとは英国領。かつて占領した国が今では、大切な取引相手になっている。また、現在はドバイが急激に伸びているけれど、そのドバイももとをたどれば、イギリスの支配下になっていたわけです。イギリス独特のしたたかさに非常に興味があります。

藤巻 ミシュラン東京版で三つ星をとって一躍有名になった「あら輝」の主人も渡英するんですよね。
松嶋 英国は相当面白いと思いますよ。ジェイミー・オリバーなど人気の料理人が登場するなど、ここ10年の間にロンドンの食の意識は大きく変化している。
藤巻 昔の“まずいイギリス”のイメージとは違うんだね。
松嶋 ドバイで流行っている店の多くはイギリスに本店があるんです。イギリスは「食」もひとつのビジネスと捉え、広げていく可能性に満ちている。でも、面白いことにロンドンに行ったときは、そこまではキャッチしきれなかった。ドバイという「外」から眺めたからこそ、「食という分野で世界を攻略するならイギリス!」と気づけたんです。


<対談を終えて……藤巻幸大から松嶋啓介さんへ>

そこそこうまい料理を作れる人は大勢いるけれど、圧倒的な世界観を魅せられる料理人はなかなかいない。松嶋シェフは、まさにそんな稀有な一人です。話をしていると、その視野の広さと、考察の深さにいつも驚かされます。本当の意味でのグローバルな視座を持っている。しかも、まだ35歳! すごい30代が現れたものだと舌を巻くのと同時に、頼もしく思っています。僕は今年、53歳。若い頃のように体力任せのムチャはできなくなりつつあるけれど、まだまだ負けていられません。松嶋シェフに教えてもらった枕で睡眠の質を向上させて、ますます元気に飛びまわりますよ!

■前編『フレンチ界の新旗手が徹底的に重視すること
自分のスタイルを確立するうえで大切にしている考えとは???

松嶋啓介
まつしまけいすけ●シェフ。1977年福岡県生まれ。エコール辻東京料理専門学校卒業。渋谷「ヴァンセーヌ」を経て20歳で渡仏。フランス各地で就業を重ねたのち、2002年、25歳の時にフランス・ニースにてレストラン「Kei's Passion」をオープン。南仏の素材を生かした斬新な料理が評判を呼び、2006年に28歳で外国人シェフとしては最年少でのミシュランの星獲得を果たす。同年、店名を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改め、拡大オープン。以来、2012年まで7年連続星を維持する。2009年には、神宮前に「レストラン アイ(2014年 KEISUKE MATSUSHIMA に変更)」をオープン。「地産地消、旬産旬消」をキーワードに、関東を中心に生産された旬の食材の味を最大に引き出す。日本版ミシュランでも1ツ星を獲得。

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