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JR東日本 鎌田由美子

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストは、エキナカの元祖「ecute(エキュート)」の仕掛け人として知られる、JR東日本の鎌田由美子さん。無数のモノに出会い、選別し、育ててきた鎌田さんのモノとのつきあい方とは。(後編) 前編はこちら

メーカーも尻込みした
「印伝」が爆発的に売れた理由

鎌田 仕事柄、日々いろいろなモノに接していますけど、「モノはいいのに、欲しい人のところに届いてない」というミスマッチは驚くほど多いですよね。
藤巻 いらないから買わないのではなく、知らないから買えない。
鎌田 この「印伝(いんでん)」も最初、そうだったんですよ。
藤巻 可愛い! 俺も藤巻百貨店のバイヤーの中村さんも大の印伝好きなんですよ。
鎌田 ホント? 嬉しい。
藤巻 若い子にも人気があるよね。
鎌田 そうなの。でも、初めて“エキナカ”で印伝を扱おうという話になったときは、印伝屋さんも「うちの商品はそんなに売れないと思います」と消極的だったんですよ。

藤巻 ええ!?
鎌田 何はともあれ、やってみましょうと母の日のイベントで置いてみたら、あっという間に欠品。誰よりも印伝の方が驚いていました。
藤巻 すごいね。
鎌田 ガマグチなど女子高生たちが大喜びで買っていくのには私も驚きました。また、名刺入れなどは若いサラリーマンに人気でした。従来の百貨店ではたいてい、和装小物のエリアに置かれてしまうこともあって、いちばん喜んでくれる相手に出会えていなかったんですね。
藤巻 日本国内では「東京」とデカデカとプリントされたTシャツなんて着ないけど、パリやミラノ、ニューヨークに行くと、“ファッショニスタ”と呼ばれるような人たちが喜んで着ていたりもする。場所が変われば、ものの見方が変わるし、価値も変わる典型だよね。
鎌田 “エキナカ”という新しいフィールドでは、同じものが違う人に売れる。買うシチュエーションが変わると、モノ選びの基準が大きく変わります。
藤巻 呉服部、婦人雑貨部……といった縦割組織では対応しきれない部分が確実に出てくるよね。
鎌田 例えば、スイーツでいうと、百貨店で扱うのは「本日中にお召し上がりください」 もしくは、焼き菓子のように1ヵ月以上日持ちするようなものですよね。
藤巻 買っていってその日に食べるか、お使い物として誰かにあげるイメージ。
鎌田 でも、エキナカの場合はそもそも、「移動中」であることが前提。相手に渡せるのは夜遅くになるかもしれないし、ヘタをすれば翌日の可能性もある。そこからすぐ食べるとは限らない……と考えると、5日間から7日間くらいは保存できるものが喜ばれるんです。
藤巻 「どういうシーンで使うのか」を突き詰めると、商品のウリや、その見せ方もわかってくる。

「いいモノ」には必ず
ストーリーがある

藤巻 鎌田さんが考える「いいモノ」って、どんなものだと思いますか。
鎌田 そうですね。作り手の想いと品質の良さが感じられることですかね。“強さ”があるモノは必ずといって良いほど、ストーリーがあります。あるものは歴史、あるものは素材と、切り口は変わるけれど、そこには物語がある。
藤巻 わかる! 物語に惹かれるからこそ、手にとるし、手に入れたくなるというのは確かにありますよね。
鎌田 例えば、この印伝は、なめした鹿革に漆をのせたものなんですが、もともとは戦国武将が武具に使っていたという歴史があるそうです。長寿や子孫繁栄、厄除けのほか、たとえば桜は「潔く散る」ということで武士に人気だっとか。
藤巻 粋でいなせな江戸の男の象徴だったわけだ。

鎌田 印伝に描かれている紋様にも、ひとつひとつ理由があります。
藤巻 鎌田さんはどんな柄が好きなの? ……トンボだ。
鎌田 トンボは「決して後ろ向きには飛ばない」という、すごく前向きな柄なんです。
藤巻 鎌田さんのキャラクターにぴったりだね!(笑)
鎌田 ところで、今日はね、ヨーグルトも持ってきたんですよ。
藤巻 これはまた美味しそうだね。

鎌田 業務用と小分けのサイズがあります。明治時代からホルスタイン種を育て、生乳だけでヨーグルトを作ってきたという歴史のある会社です。実際に足を運ぶと、ホント大自然のなかでのびのび牛が育てられている。健康的な場所でつくられた、健康的な食材を使ったものには、やはり心惹かれますね。
藤巻 「量」の問題も重要だよね。興味を抱いても、ひとつひとつが大きいと手が出ないこともある。
鎌田 一人世帯または二人世帯が過半数を占める今、“四人家族向け”に縛られるのはナンセンスなんですよね。高齢化社会が進み、子どもの数が減っている。量はそんなにたくさんはいらないけれど、食べる喜びを味わいたいとうニーズは年々高まっているように思います。
藤巻 ファッションもそうだね。持つ喜びを実感してもらえるようなアイテムであり、仕掛けが求められている。

地域と地域、地域と人とを
つなげる“フック”になりたい

鎌田 日本理化学工業ってご存知ですか?
藤巻 初めて聞く名前です。
鎌田 日本で初めて、ホタテの貝殻で作ったチョークを開発した知る人ぞ知る企業なんですが、じつは社員の7割が知的障がい者が占めている会社でもあるんです。
藤巻 7割というのはすごいね。
鎌田 この会社が作っている「キットパス」という文房具が面白いんですよ。ホワイトボード、ガラス、プラスチック等つるつるしたところなら何にでも書けて、濡れた布だけで何度でも消せる。
藤巻 (会議室の壁に向かいながら)ここに書いても平気かな。
鎌田 多分大丈夫だと思いますよ(笑)
藤巻 すごくきれいに書けるものだね。

鎌田 単なる落書き用というわけではなくて、例えば、ワインボトルにメッセージを書けば、ちょっとしたギフトの演出にも役立ちます。
藤巻 これは面白いな。
鎌田 口紅と同じ材料を使っているので、子どもが間違えてなめてしまっても大丈夫。「安全性」という観点から見ても、非常にクオリティが高いんです。
藤巻 “お涙ちょうだい”ではなく、商品力で勝負しているところが素晴らしいね。
鎌田 そうなんです。最先端の商品を生み、それでシェアを握っている。この企業がもっと成功すれば、もっとたくさんの人を雇うことができる。商品を買うだけでも楽しいけれど、さらに誰かの役にも立てるのが嬉しい。

藤巻 今後、作り手と売り手、買い手をつなぐコミュニケーションはますます大事になってくるだろうね。
鎌田 私たちの役割も、まさに“コネクター”だと考えています。モノを通じて、全国各地をつなげることで、もっともっと多くの人たちに幸せになってほしい。産業と雇用を結びつけるフックになりたいんです。
藤巻 買い手を幸せにするものをつくるには、やっぱり、作り手側も幸せにならなくてはダメだなと思いますね。
鎌田 それから、地元のプライドですね。例えば、青森県では多くのホテルが披露宴での乾杯に、シャンパンではなく、地元産シードルを使ってくれています。じつは地元消費だけで7割を占めるほど。
藤巻 本気で“地のもの”をどうにかしようと思ったら、地元にしっかり入り込むことが必要だよね。
鎌田 信頼関係ですからね。地元に根ざした活動をしつつ、藤巻さんのような情報を拡散できる力を持った人を巻き込む。そんな“フック”としての活動をこれからも続けていきたいですね。


<対談を終えて……藤巻幸大から鎌田由美子さんへ>

初めて会ったときから、薄々感じていただけれど、僕らは本当によく似ている。お互いによくしゃべり、よく飲み、よく動く(笑)。「この人とこの人を会わせたら、面白いことが起きそう!」と思ったら、いてもたってもいられず、その場ですぐ電話してしまうのも同じ。鎌田さんにはたくさんの人を紹介してもらったし、紹介してきた。結果、同じようにパワフルで、せっかちで、エネルギッシュな共通の知り合いがたくさんいる。刺激と感動を与えてくれる仲間は貴重な存在です。日本を面白く変える同志として今後ともよろしくお願いします!

~鎌田由美子さんのゲストインタビュー~

『A-FACTORYのアオモリシードル』
開発にあたり鎌田由美子さんが熱い想いで手掛けたのは、100%青森県産りんごで醸造されるりんごのお酒「アオモリシードル」。すっきりとした飲み口と繊細な泡立ちは、自宅用は勿論のこと、大勢で楽しむホームパーティーの乾杯や手土産にもうってつけの逸品。

■前編『なぜ青森でシードルだったのか?
青森新幹線開通時にオープンしたシードル工場の誕生秘話とは……?

鎌田由美子
かまだゆみこ●東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 地域活性化部門 部長。1989年東日本旅客鉄道㈱入社。本社開発事業本部を経て、大手百貨店に出向。駅ビル等出向を経て、2001年に本社事業創造本部「立川駅・大宮駅開発プロジェクト」においてエキナカビジネスを手がける。2005年、『ecute』を運営する㈱JR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に就任。
2008年11月、本社において地域活性化・子育て支援事業を手がけ、2010年6月より現職。 2012年国家戦略会議フロンティア部会委員、いばらき農業改革支援会議委員、学校法人日本女子大学評議員、いばらき大使、筑西ふるさと大使を務める。ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006を受賞。

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