藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”について、とことん語り合う「ゲストインタビュー」。今回ははエンツォ・フェラーリ等のデザインを手がけた世界的デザイナーであるKEN OKUYAMAこと、奥山清行氏にデザインとモノづくりについて伺った。(後編)前編はこちら
デザイナーと職人の出会いが生んだ
至高のアイテム
藤巻 僕ね、奥山さんがどんな風にデザインし、モノを作りあげていくのか、その過程を聞いてみたいんです。
奥山 例えば、「RINGO(リンゴ)」シリーズはまず、紙粘土で原型を作ったんですよ。どこから見ても格好良く、しかも持ちやすいという理想のフォルムを探して、試行錯誤した末にできあがったのが今の形。ところが、原型は決まったものの、作れる人が見つからないというアクシデントが!(笑)。
藤巻 それで、どうしたんですか?
奥山 あちこち探し続けて、ようやく「やってみましょう」と言ってくれたのは多治見にいる、春田さんという職人さんでした。丸一年半くらいかけて、一緒に作り上げたのが現在の「RINGO」シリーズです。
奥山 自分で始めておいて、こんなことを言うのも何ですが、本当に大変でした。鎚起銅器を使ってティーポットや茶筒を使った「FUJI(フジ)」シリーズもそうですが、もの凄い職人技が随所にちりばめられています。
藤巻 「FUJI」シリーズも素晴らしいですよね。
奥山 これは一枚の銅板を金槌で叩いて伸ばしながら、少しずつ丸めていくんですよ。途中で銅板が割れてしまったら二度と元には戻らない。だから割らないよう、慎重にひだを作り、袋状にしたところで、今度はシワを縮め、ピカピカに仕上げる。そこでさらに岩肌のような模様を出すため、わざと大きさを変えながら表面をつぶしてもらう。
藤巻 凄いな……。聞いているだけで圧倒される。
奥山 このティーポットもリンゴがモチーフなんです。大きさがちょうど、リンゴの「ふじ」のサイズ。持ちやすくて愛着がわく形であり、大きさなんですよね。
藤巻 色もそれぞれ味があって楽しいですね。
奥山 フランスの展示会に持っていったら、一番興味を持ってもらえたのがこのFUJIシリーズでした。
藤巻 買う・買わないを決めるのは値段だけではないということですよね。そこにあるストーリーや志、想いを知り、一生かけてつきあっていくようなアイテムを選ぶと思えば、10万円を出す価値があるというのは、すごくわかる。
“メディチ家”な人々が乗る
KEN OKUYAMAのオープンカー
藤巻 そういえば、KEN OKUYAMAブランドでは自動車も作っているんですよね。
奥山 一度に作れる台数がまだ少ないので、やたらと高いんですよ。
藤巻 年間どれくらい作っているんですか?
奥山 年間5台とか、その程度ですよ。自分でやってみると、凄く大変でフェラーリの凄さを改めて思い知らされます。あれだけ素晴らしい車を2500万円で作り、きちんと利益をあげるというのは並大抵のことではない。効率的に量産できる体制づくりからブランディング、すべてが揃って初めてできることです。
藤巻 ちなみに、KEN OKUYAMAの車は1台いくらぐらい?
奥山 3500万円くらい(笑)
藤巻 どんな人が乗っているんですか?
奥山 ルネサンス期のメディチ家のような方々です。僕の活動を支えてくださるお客様が買ってくださっている。
藤巻 いいなあ、メディチ家!
奥山 しかも、屋根もついてないので“雨が降ったら、濡れろ”という完全なるオープンカーです。
藤巻 この車に乗って、FOX(フォックス)の傘をさしたらかっこいいだろうな。昨日、FOXのオーダー会があったのでのぞきにいったんだけど、1本20万円くらいするんですよ。でも、傘の柄に競馬観戦用の小さなペンがついていたり、シングルモルトを入れられるケースがついているというような遊び心が楽しい。いかにも英国! という感じのブランド。奥山さんが作るものは、不思議とどこか英国の香りを感じるんですよ。
奥山 イタリアにも英国に対する憧れがあるからね。裕福な家の子供の進学先は英国の寄宿学校というパターンが未だに多いし。
藤巻 ホント、“いいもの”ってアブないよね。お金がかかってしょうがない。もっともっと稼いで、こういうものを全部オーダーできるようになりたい!
かつて百貨店には、素晴らしいモノを売っているということ以上の“何か”があった
藤巻 この「藤巻百貨店」も、奥山さんと一緒にやっている「日本元気塾」もそうだけれど、日本のモノづくりを見直さなくてはいけない時期を迎えているような気がしてならないんです。
奥山 かつて百貨店には、素晴らしいモノを売っているということ以上の“何か”があったんですよね。子供の頃、デパートはもの凄く華やかな夢の場所だったし、そこには凄く格好いいお兄さんお姉さんがいて、僕らが思いもつかないようなモノの話を教えてくれた。
藤巻 いつの間にか失われてしまった“暮らしぶり”を取り戻したいというのも、藤巻百貨店のテーマのひとつです。
奥山 いい意味での“裏切り”も大切だよね。期待以下は言うまでもなく、期待通りでもリピーターはつかない。見た目が気に入って買ったアイテムだとしても、格好いいだけで使いづらかったら二度と買ってくれない。「まさか、こんなに使いやすいとは!」という驚きがあるからこそ、満足感につながる。しかも、最初にその気にさせるには、モノの向こう側にある背景やストーリーを伝えていく必要もある。あんまり語りすぎると、それはそれでうるさいんだけどね(笑)。
藤巻 最後に、奥山さんが今後手がけていきたい分野について教えてください。
奥山 ここ2?3年の課題としては、まずは僕たちの考え方を普段の生活の中で味わってもらえるようなモノづくりをしていきたいと考えています。時計もいつか作りたいし、鞄も作りたい。できあがったらぜひ、藤巻さんにも見てほしい。
藤巻 楽しみにしています!
<対談を終えて……藤巻幸大から奥山清行さんへ>
奥山さんは<お客さんの視点>をデザインに落とし込める希有な存在。そう改めて感じました。20年以上バイヤーの仕事をしてきて、一流と呼ばれるデザイナーにもたくさん会ってきたけれど、本当の意味で<お客さんの視点>を失わずにいられる人は本当に珍しい。今は作り手のエゴを押しつけたらモノは売れない時代。かといって、マーケティングありきでは魅力的なものが作れない。では、どうすればいいのか? という疑問を対するヒントをたくさん奥山さんからもらったような気がします。こうした日本のトップデザイナーの方が作るモノがいろいろ出てくるとホント嬉しいし、楽しい。俺もモノの向こう側にある“何か”に出会える百貨店づくり目指して、頑張ります!
~奥山清行さんのゲストインタビュー~
『“RINGO”シリーズのカップ&ソーサーセット』
インタビュー中にも登場する、奥山清行さんがデザインを手がけたカップ&ソーサー。リンゴをモチーフにし、陶磁器で有名な岐阜県・多治見で生産している。丸みを帯びたカップは、通常のカップに比べて香りを集約させるので、コーヒーを飲むときなどは特にオススメ。
■前編『世界に冠たるデザイナーが考える“プロ”の条件』
奥山清行
おくやま・きよゆき●工業デザイナー。1959年山形県生まれ。エンツォ・フェラーリ、マセラティ・クアトロポルテなど、数多くの自動車を手掛けてきた世界的カーデザイナーとして知られる。2007年に株式会社KEN OKUYAMA DESIGNを設立、代表に就任。自身のブランドである「KEN OKUYAMA CARS」(自動車)、「KEN OKUYAMA CASA」(家具インテリア)、「KEN OKUYAMA EYES」(眼鏡)を展開。アートセンターカレッジオブデザイン工業デザイン学部(米)、多摩美術大学、金沢美術工芸大学、山形大学工学部などで教鞭を執る他、各地で講演も行う。『人生を決めた15 分 創造の1/10000』『ムーンショット デザイン幸福論』(武田ランダムハウスジャパン)など著書多数。
http://www.kenokuyamadesign.com/