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日本の優れた職人との共創プロダクト

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パティシエ 辻口博啓

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストは「パティシエ」の地位を確立された立役者でもある、辻口博啓。数々のコンクールで優勝を果たし、“パティシエ世界一”とも評されながら、さまざまなことに挑戦し続ける。そんな辻口さんを魅了してやまないモノとは??。(前編) 後編はこちら

カリスマパティシエが
キュートな眼鏡をかける理由

藤巻 今日は辻口さんとぜひ、眼鏡の話をしようと思って来たんですよ!
辻口 藤巻さんも眼鏡がお好きなんですよね。
藤巻 いつも3つ、4つ持ち歩いていて、シチュエーションに応じて変えています。
辻口 ニュース番組で拝見するたびに、ステキな眼鏡をかけていらっしゃるなと気になっていました(笑)
藤巻 ありがとうございます! メーカーと組んで、オリジナルの眼鏡を作ったりもしているんですよ。
辻口 いいですねえ。僕の場合は、眼鏡くらいしかおしゃれをできる場所がないというのが、一番の理由なんです。
藤巻 確かに、僕は堅苦しいのが苦手でカジュアルな服装ばかりしているけれど、パティシエはそうはいかない。

辻口 いでたちは変えることができないし、アクセサリーを身につけるわけにもいかない。変化を楽しもうと思ったら、眼鏡を変えるしかない。
藤巻 でも、それだけ制約があるなかで、ファッションを通じて自己表現しようという気概が素晴らしい。
辻口 学生時代に、学生服の裏側に細工したいと考えるのと、感覚としては似ているかもしれません。何かしら人と違うことをしたいんでしょうね(笑)

藤巻 すごくよくわかります。僕もね、この間、バッグをいただいたんですよ。それで、少し加工してみようかなと思って。
辻口 どうしたんですか。
藤巻 友人の絵描き兼デザイナーに絵を描いてもらったんです。(バッグを見せながら)。 こういうの、面白くないですか。日本にいるときは「日本は美しい国だ」と描かれた側を見せて歩くんです。
辻口 すごい!(笑)
藤巻 さらに、バッグの底には「藤巻」を現すイラストが描かれているんです。
辻口 傑作ですね。
藤巻 メーカーの方には本当に申し訳ないんだけど、こういう悪ふざけを面白がって一緒にできる仲間がいるというのが、またありがたいんですよね。

和菓子屋の三代目と
スイーツの運命的な出会い

藤巻 辻口さんがスイーツの世界を目指そうと思った最初のきっかけは何だったんですか。
辻口 もともとは和菓子屋の三代目なんですよ。でも、小学校3年生のときに友達の誕生パーティで食べた苺のショートケーキにあまりにも感動してしまって……。
藤巻 未知の美味しさだった?
辻口 饅頭は飽きるほど食べていたけれど、ケーキを食べたのはそのときが初めて。あまりに美味しくて、クリームのついた皿を舐めてしまったほど。そんな僕の様子を見た友達の母親が「辻口くんの家にこんな美味しいお菓子ないでしょう」と。
藤巻 ちょっと失礼な言い方だね。
辻口 子ども心にものすごく悔しかったんですが、でも、その悔しさよりもお菓子に対する感動のほうが大きかったんです。そこで、親父が和菓子を作れるなら、自分は洋菓子を作れるようになろうと決意したんです。

藤巻 小学生にして、早くも将来の進路を決めたわけだ。
辻口 ところが、18歳のときに多額の借金を残して、父親が亡くなってしまいます。家も店も手放さなくてはならず、僕も地元に戻ってカマボコ屋に就職しろと言われます。
藤巻 危うくカマボコ屋に!?
辻口 そうなんです。でも、どうしても洋菓子職人になる夢が諦めきれず、「3年で一人前になるから」と母親を説得し、上京したんです。とはいえ、借金だらけですから学校に通うお金はない。
藤巻 どうしたんですか。
辻口 初任給4万5000円の住み込みからスタートし、菓子作りの技術を覚えるために朝から晩まで働きました。
藤巻 時期としてはいつ頃ですか。
辻口 1985年くらいですね。
藤巻 ちょうど俺が伊勢丹に入社して2~3年の頃だ。当時はそれこそ、よく自由が丘に遊びに来ていましたよ。僕は横浜出身なんですが、ハマっ子にとって自由が丘こそが東京。一番恰好いい場所であり、文化の集積地だった。
辻口 その後は、大泉学園の店に行き、23歳のときに「全国洋菓子技術コンクール」で優勝します。
藤巻 5年目で開花したんですね。
辻口 コンクール優勝の副賞として、フランス旅行がついていたので、23歳ではじめてフランスに行くんです。そして、日本のスイーツのレベルの低さを目の当たりにします。
藤巻 同じ頃、僕はバーニーズの立ち上げに関わっていました。バーニーズ・ジャパンをたちあげていた頃だ。まさに僕も、日本の狭さを実感していた頃ですよ。第二次大戦によって歴史が分断されてしまっていることを痛感した時期。
辻口 僕自身はコンクールで優勝することによって、スポンサーを得ようとしていたんです。
藤巻 そして見事、1998年に自由が丘に「モンサンクレール」をオープンする。しかも、自分で店をやるということだけでなく、全国にパティシエという職業を広めた。
辻口 田原総一郎さんからは「パティシエという言葉を私物化していますよね」というご指摘されました(笑)
藤巻 それは間違いなく、素晴らしい褒め言葉でしょう。

ベトナム経由で発信する
クール・ジャパンという挑戦

藤巻 お話を伺っていると、辻口さんにとって、スイーツはライフスタイルの一部を超えて、人生そのものだなと思いますね。
辻口 そうかもしれません。
藤巻 今日初めてお会いしたけれど、スイーツだけではなく、食生活や食文化のことまでひっくるめて全部考えているということがひしひし伝わってきますね。
辻口 やはり、生産者の方に元気になってもらわないと、という思いはありますね。
藤巻 そうなんだよね。生産者が幸せにならないと、ものづくりはうまくいかない。
辻口 この間、シンガポールで開催された"Cool Japan"イベントに“伊達家の酒”を使ったスイーツを持っていったんですよ。

藤巻 宮城県の勝山酒造だ!
辻口 酒器の中に、昆布で作ったチョコレートを浮かべたんです。これがすごく美味しい。酒とチョコレートを一緒に口に含み、咀嚼すると、グッと深い旨味と香りが味わえる。
藤巻 体にも良さそうだね。
辻口 アミノ酸たっぷり入っていますからね。海外からの反応も良かった。
藤巻 日本を海外に打ち出していく上での素晴らしいアイディアはまだまだ無数にあるということだよね。
辻口 海外進出ということでいうと、ちょうど2年くらい前からベトナムに日本茶農園を持っているんです。
藤巻 それはケーキの素材用ですか。それとも、ケーキと一緒にいただく用……?

辻口 両方あります。もともと、その茶園は国内の大手商社と三重県が共同経営していたものです。18年間かけて、ベトナムでも“やぶきた茶”を育てられるようになった。でも、不採算部門だったこともあり、合併をきっかけに商社が手を引くという話になり、僕に声がかかったんです。
藤巻 なるほど。そんな経緯があったんですね。
辻口 せっかく声をかけていただいたのだからと、現地を見に行ったら、地元の山岳民族の人々を雇い、手摘みでお茶を作っている。しかも、農薬無散布。標高1000メートルの山岳地帯なので虫がほとんどいないため、農薬をまく必要がないんです。今は原発の問題があり、日本産のお茶は海外輸出が難しい。でも、この農園で作った緑茶や抹茶はマレーやタイにどんどん輸出している。いわば、日本のお茶作りの技術を海外に送っているようなものだと思うんです。
藤巻 まさに、クールジャパンでしょう。そんなやり方があったのかと目からウロコが落ちる思いですよ。

■後編『辻口流のセンスの磨き方とは?
独学で身につけたという「美」の教養とセンス。その方法とは??

辻口博啓
つじぐちひろのぶ●1967年石川県生まれ。クープ・ド・モンドをはじめ世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験を持つ。モンサンクレール(東京・自由が丘)をはじめ、コンセプトの異なる12ブランドを展開。最近では、ベトナムに農薬無散布の茶畑を所有し、現地の方々に職を提供し、収穫されたお茶を使った商品販売も行う。また、2011年にはSUPER SWEETS SCHOOL自由が丘校、2012年4月にはスーパースイーツ製菓専門学校を開校。両校の校長を務める。一般社団法人日本スイーツ協会代表理事も務め、スイーツ検定など実施。スイーツ文化の更なる発展と向上に力を注ぐ。

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