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JR東日本 鎌田由美子

藤巻幸大が各界で活躍する方々をゲストに招き、“モノとのつきあいかた”を語り合う「ゲストインタビュー」。今回のゲストは、エキナカの元祖「ecute(エキュート)」の仕掛け人として知られる、JR東日本の鎌田由美子さん。無数のモノに出会い、選別し、育ててきた鎌田さんのモノとのつきあい方とは。(前編) 後編はこちら

出会いのきっかけは電報!?
ともにエキナカビジネスに挑戦

藤巻 知り合ったのは2004年頃、ちょうど鎌田さんたちがecute(エキュート)のオープン準備に追われていた頃ですね。
鎌田 当時、藤巻さんは福助で社長をされていた。
藤巻 そうそう。僕が『会いたい人がいたら、電報を送れ!』というような話を講演会でしたら、鎌田さんの部下だった菅野君から、いきなり電報が来たんですよ。かくかくしかじかで、会って相談がしたいと(笑)
鎌田 そこにはいきさつがあるんです。ecute(エキュート)開業にあたって、いろいろな企業に出店のオファーを出したんですが、ことごとく断られてしまう。当時は“エキナカ”という言葉もありませんし、「ブランドイメージが落ちる」「(駅のような)過酷な労働環境で、うちの社員を働かせるわけにはいかない」と社内で反対されるケースがほとんど。

藤巻 ああ……。
鎌田 何とかして企業の協力をあおぎ、盛り上げていきたいと思っていた矢先、チームの一員である菅野の母校で藤巻さんが講演されるらしいという。「渡りに船」とばかりに、講演を聴きに行き、藤巻さんの教え通り、電報を送ったんですね。

藤巻 僕自身、かつては会いたい人に巡り会うと、電報を送っていたんです。それぐらい、積極的に相手のふところに飛び込め! というような話を本にも書いたし、講演でも話したんですが、まさかホントに電報をよこす人がいるとは(笑)
鎌田 電報をお送りした後、すぐに藤巻さんから連絡をいただいたんですよね。
藤巻 正直に言うと、JR東日本といわれても、まったくピンとこなかった。「もう、“国鉄”ではないんだっけ?」くらい、何もわかっていない。でも、自分の言葉には責任を持たなくてはいけない。「電報を送れ」と言ったのは僕なんだから、応える必要があるだろうと。
鎌田 藤巻さんから菅野に電話をくれたとき、ちょうど一緒にいたんですよ。ecuteの立ち上げメンバーが集まって、ああでもないこうでもないと打ち合わせをしていたときに、「藤巻さんから電話だ!」と(笑)。

藤巻 その後の打ち合わせで、詳しくエキナカビジネスについて聞いてみると、これが面白い。
鎌田 ほとんどの企業が尻込みする中、二つ返事で参画を決めてくださった……。ホントありがたかったです。
藤巻 うちの会社でも、社内ではもちろん、反対する声もありました。でも、「社長命令だから!」で一蹴してしまった(笑)。マイナスイメージがどうこうというけれど我々はこれからブランドを育てていくところなんだから、どちらもゼロからのスタート。一緒に頑張っていったほうが、面白いことができるという確信がありました。


モノを通じて、人と人、地方と都心をつなげる

藤巻 僕たちはお互いによく喋るし、マメなところも似ているんだよね。
鎌田 誰か面白い人に会うと、すぐに紹介しあうので、どんどん共通の知り合いが増えちゃう(笑)。
藤巻 2日に1度は電話で話している気がする。ほとんど、電話病(笑)。毎晩のように、いろいろな人と会食をしているんだけれど、たまに真面目に仕事をしてる夜もある。でも、そこに明らかに会食の席にいるであろう鎌田さんから「今、盛り上がってるの!」と 電話がかかってくる(笑)。まあ、俺も似たようなことをしているんだけど。
鎌田 事情も説明ないまま、いきなり「電話替わるね!」と言われちゃうこともしょっちゅう。でも、藤巻さんは声が大きいから電話の向こうから漏れ聞こえてくる会話で、「ああ、新潟の人たちと飲んでるんだな」とわかったりする。
藤巻 そんな関係がもう何年も続いている。似たもの同士だし、もっというと、志が似ているんだよな。一言でいえば、日本をもっともっと元気にしたい。
鎌田 いろいろなエリアでいくつもの取り組みを進めているんですが、そのひとつに越後湯沢の再開発があります。
藤巻 もう3年くらいやっているよね。
鎌田 さすが!よくご存知!
藤巻 俺、JR東日本にはかなり詳しいよ。いつでも、PR担当できるくらい(笑)。何の変哲もない駅だったのが、おしゃれで楽しい雰囲気の空間に変わった。
鎌田 新幹線の改札前のエリアがちょっとさびしかったのを地元のグループ会社と一緒に「これでもか」というくらい地元のモノを並べたり、トイレのバリアフリー化、地元観光案内所を4カ国語表記で中央に設置したり、待ち合いスペースもほっこりした雰囲気になりました。

藤巻 都会の人間からしても“地元ならでは”に出会えるのが嬉しいというのはあるよね。
鎌田 上野駅の構内にある地産品ショップ「のもの」では、3週間ごとに東日本エリアを中心に各地の“地のもの”を販売しているんですが、売って下さっているのは各県庁の職員と地方銀行の方たちなんです。
藤巻 面白い試みだよね。東京にいながら、地元の人と交流しながら、地のものが買える。
鎌田 地方のものを都会に届けるというだけではなく、県同士の横のつながりも生まれつつあるのが、また面白いんです。
藤巻 じつは似たような課題や悩みを抱えていたりするんだよね。
鎌田 モノを通じて、人と人とがつながり、地方と都心がつながっていくことで解決の糸口が見つかるかもしれない。
藤巻 俺がやりたいのも、まさにそれ! 豊かな食材や風土、文化、土地ごとに育まれてきた素敵な物語がたくさんあるのに、まだまだ知られていない。広く知らせることで、魅力的なものと出会うチャンスが増えるし、本当の意味での地域の活性化にもつながると思う。
鎌田 地元の人が乗り気になってくれないと、活性化はうまくいかない。いかに本気になってもらうか、気持ちに火をつけられるかが勝負なんですよね。

なぜ、アップルパイではなく
シードルだったのか

藤巻 鎌田さんと言えばさ、いろいろな凄い話があるけれど、やっぱり、青森のシードルの話は圧巻だよね。ある日突然、青森のリンゴについて語り始めたかと思ったら、ホントにシードル工場を作っちゃった。
鎌田 そうでしたっけ(笑)
藤巻 びっくりしたよ。
鎌田 青森新幹線が開通するときに、地元と協力して何かできないかという宿題をいただいたんですよね。
藤巻 そこで目をつけたのが、リンゴだった、と。

鎌田 青森県はリンゴの生産量日本一なんですけれど、8割は生食用。残り2割が加工用ですがその大半はジュース。加工の用途が広がれば、もっとたくさんのリンゴが活用できるようになると考えて、つくったのが地元のリンゴを使ったシードルです。
藤巻 どうしてシードルだったの?
鎌田 最終的に作りたかったのは、シードルを原料にしたアップル・ブランデーなんです。生のリンゴは、日が経つにつれて価値が落ちてしまう。でも、アップル・ブランデーに加工すれば長期保存すればするほど価値が上がる。
藤巻 加工することで、価値基準が逆転する! 
鎌田 最初は、アップルパイも考えたんです。でも、何か違うような気がしてならなかった。青森県の浪岡街道沿い、青森空港から弘前市に入るあたりを車で走っているときに、周囲の景色がフランス・ノルマンディー地方の“シードル街道”にそっくりだと思ったんです。
藤巻 最初からシードルに興味があったわけではなく、ひらめきがあって、シードルのことを調べ始めた?

鎌田 そう! 思いつきをつなぎあわせたの(笑)。調べてみると、国産のシードルはほとんどないし、すごく簡単な設備で作れるから設備投資も最小限で済むことがわかったんです。そして地元のメーカーさんや研究機関がいろいろ協力してくれてできたんです。
藤巻 青森駅前にある「A-FACTORY」ではシードル工房の見学や試飲もできるんだよね。生産量はどれくらいなの?
鎌田 現状の設備だと年間10万本が限界です。でも、これ以上生産量を増やすのではなく、フックになれればと。シードルが売れるならうちもやってみよう、と地元のりんご農家の方々にもつくってもらえたらいい。バリエーションがあって選べるほうが、買ってくださるお客さまにも楽しんでいただけるし、シードル街道が青森にできれば、それを目当てに青森に来て下さる方が増えるかもしれない!
藤巻 日本のシードル街道、ぜひ誕生してほしいね!

鎌田由美子さんのゲストインタビュー

『A-FACTORYのアオモリシードル』
開発にあたり鎌田由美子さんが熱い想いで手掛けたのは、100%青森県産りんごで醸造されるりんごのお酒「アオモリシードル」。すっきりとした飲み口と繊細な泡立ちは、自宅用は勿論のこと、大勢で楽しむホームパーティーの乾杯や手土産にもうってつけの逸品。

■後編『いいものにはやはり、ストーリーがある』
エキナカで女子高生の心をつかんだ、あのアイテムとは……?

鎌田由美子
かまだゆみこ●東日本旅客鉄道株式会社 事業創造本部 地域活性化部門 部長。1989年東日本旅客鉄道㈱入社。本社開発事業本部を経て、大手百貨店に出向。駅ビル等出向を経て、2001年に本社事業創造本部「立川駅・大宮駅開発プロジェクト」においてエキナカビジネスを手がける。2005年、『ecute』を運営する㈱JR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長に就任。
2008年11月、本社において地域活性化・子育て支援事業を手がけ、2010年6月より現職。 2012年国家戦略会議フロンティア部会委員、いばらき農業改革支援会議委員、学校法人日本女子大学評議員、いばらき大使、筑西ふるさと大使を務める。ウーマン・オブ・ザ・イヤー2006を受賞。

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